こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カセットテープ・ダイアリーズ

f:id:otello:20200709095918j:plain

夢なんか持つんじゃない。希望が芽生えても空しいだけ。将来は父が決め、彼には従わなければならないのだから。物語は、英国で暮らすモスリム少年が、青春の挫折と魂の自由を訴えた曲に心を揺さぶられ、己の中の真実を見つけ出していく過程を描く。家族に対して絶対的な権限をふるう父は、妻の内職代も息子のバイト代も取り上げる暴君。家長として一家を守る責任を負うとともにあらゆる決定権を握っている。だが、民主国家で育った少年は、そんな父が疎ましくて仕方がない。その上、宗教的・伝統的習慣を堅持しようとし、少年の気持ちも西欧の文化も理解しようとしない。そして町にはびこるヘイトスピーチと失業者の群れ。この作品の舞台となった1980年代後半も21世紀の現代も、差別と格差という社会問題は変わっていないのが哀しかった。

パキスタン移民2世のジャベドは進学した高校で知り合った友人からブルース・スプリングスティーンのミュージックテープを借りる。歌詞に共感したジャベドは、その日から彼の音楽を聴き続ける。

米国の労働者階級が厳しい現実の中でもがきながら必死で生きる姿を描写した歌は、ジャベドの人生の指標となる。書き溜めた詩や日記、さらに文章に磨きをかけるために作文コースにも積極的に参加、先生からも評価されるようになる。ブルースのおかげで借り物ではない自分の言葉で表現する楽しさを学んだジャベドは文筆で身を立てる決意をするが、実業第一の父は許してくれない。そのあたり、頑固な父との対立はそれこそ大昔の日本映画のようだが、イスラム圏ではいまだに当たり前なのだろう。信仰や政治体制が個人に勝る世界は、やっぱり息苦しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

映画は、時にミュージカル調になったり右翼活動家の暴力にさらされたりと多面性を保ちつつジャベドの自立を見守っていく。その支えとなるスプリングスティーンのナンバーは、時代を越えて強烈なインパクトを残す。その後も、さまざまな困難が立ちはだかるがなんとか克服する予想通りの展開も心地よかった。

監督  グリンダ・チャーダ
出演  ヴィヴェイク・カルラ/クルヴィンダー・ギール/ミーラ・ガナトラ/ネル・ウィリアムズ/ディーン=チャールズ・チャップマン/ヘイリー・アトウェル
ナンバー  104
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
http://cassette-diary.jp/