こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プラド美術館 驚異のコレクション

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16世紀に日の沈むことがない帝国を築き上げたスペイン。歴代の王はカトリックに帰依し、公の目に触れる美術品には神の栄光を背景にした自らの威光を称えさせた。一方で、プライベートで雇った宮廷画家たちには裸婦像から静物画まで比較的自由に描かせた。画家たちはベネツィアやフランドルで最新の理論を学び、光と影のコントラストでモデルをリアルに描写する技法をより洗練させていく。カメラは、マドリードにあるプラド美術館の収蔵品にフォーカスし、王家と深く結びついたスペイン絵画史を紐解いていく。ルネサンスを経たのちのアートは思ったほど宗教とのかかわりは薄く、むしろ人間そのものに肉薄する作品や、果物や調理用の鳥といった日常生活で目にする静物を対象としている作品が多いのが意外だった。

ジェレミー・アイアンズのガイドで始まったプラド美術館巡り。スペイン王国の黄金期に君臨したカルロス1世の治世から16世紀のエル・グレコ、17世紀のベラスケス、18~19世紀のゴヤへと時代を下っていく。

植民地収奪による莫大な富をバックにコレクションに加えた絵画のみならず、王家では独自にアーティストたちを育てていく。特に注目したいのはクララ・ペーテルズの静物画だ。細密に再現された花とお菓子と飲み物の静物画の中で、磨き上げられた銀のポッドに自らの姿を映し込ませる。まだ女性画家が珍しかった当時、あまり女性が目立つのは許されなかった。にもかかわらず、見る人が見ればわかるような形で足跡を残す。彼女が自己顕示欲を満たすにはこうするよりほかなかったと思わせる苦心が当時の女性の地位の低さを象徴し、非常に興味深かった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、美術品の紹介の方法が総花的で一貫性がなく、この美術館の特徴がよくつかめなかった。8700点に及ぶ収蔵品全体が数世紀にわたる数多くの王たち趣味を反映しているがゆえに、際立った傾向や特色がないのは仕方がない。それでも、もう少し切り口にエッジを利かせ、“これぞプラド美術館” というべき強烈なアピールが欲しかった。

監督  ヴァレリア・パリシ
出演  ジェレミー・アイアンズ/ノーマン・フォスター/ ミゲル・ファロミール
ナンバー  121
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
http://prado-museum.com/