こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

君が世界のはじまり

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父親なのか母親なのか友達なのか恋人なのか。どれかが欠けている。何かがもの足りない。充たされない気持ちを抱えながらも、とりあえず学校に通い日常生活を送っている。物語は、生きる方向性を見失いそうになった高校生たちが様々な体験を通じて希望を取り戻していく過程を描く。己は何者なのか、必死でもがきながら答えを追い求めている。きっと見つかると信じていたいのに、見つけられないと理解していく。そんな中、成績優秀で家庭環境にも恵まれた女子は、ますますこのままでいいのかという思いを強めていく。映像からはひりひりする緊張感が漂ってくるのに、会話からはボケてはツッコミを入れる大阪人特有のノリがあふれ、奇妙なアンバランスが絶妙のミスマッチを成功させている。切ないのにおもろい、ユニークな感覚が満載の作品だった。

優等生のえんはイケイケ系の親友・琴子に振り回されっぱなし。ある日、琴子は業平に一目ぼれして告白、付き合い始める。ところが業平はえんに興味を抱き、ふたりは帰宅途中に言葉を交わすようになる。

一方で、父子家庭のじゅんと父の再婚で東京から来た伊尾は、親との複雑な関係を持つ者同士気になっている。そして、お互いの心には踏み込まないまま傷をなめ合うように体を重ねる。好きとかいった恋愛感情など彼らの間には存在しないかのよう。それでも相手を必要としている。恋とか友情とか目標に向かって走るとかいった、まっとうな青春のきらめきに満ちた世界の裏を行く彼らは、夢を見出だせない2010年代の若者を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

えん・業平・じゅん・伊尾に体育会系の岡田を加えた5人は、閉店後のショッピングセンターで雨宿りをしているうちに一夜を明かす。店内には彼ら以外誰もいない。くすぶっていた感情を思いきり爆発させる。こんな街にいたくない。もっと刺激が欲しい。でも、自分も親たちと同様ここで結婚し子供を育てやがて年を取る。やりきれない閉塞感に折り合いをつけるためにブルーハーツを熱唱する姿は、ほんの少しだけ輝いていた。

監督  ふくだももこ
出演  松本穂香/中田青渚/片山友希/金子大地/甲斐翔真/ 小室ぺい/江口のりこ/古舘寛治
ナンバー  123
オススメ度  ★★★


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