こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

リトル・ジョー

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その香りを嗅いだだけでハッピーになれる花。気持ちが穏やかになり、他人への思いやりに満ちた気分にさせてくれる。ところが、心はいつの間にか失われていく……。物語は、遺伝子操作で新種の花を開発した研究者が、その花を息子に贈ったことから生じる悲劇を描く。きれいに整列して温室に植えられた真っ赤な花、1本1本が人の気配を察知している。室温を上げ、水をやり、話しかける。愛情を注げば注ぐほど花は成長し美しい花弁を開く。タイミングを見計らって花粉を飛ばしている。だが、研究所の人々は生命の本能に気づき、花の本当の意図を知る。まるで意思があるかのごとき反応をヒロインは気にしているが、功名心が先走りしてこの花の欠点を認めようとはしない。そんな、じりじりと花に追い詰められていく人々の恐怖がリアルに再現されていた。

バイオ企業に勤めるアリスは息子のジョーに研究中の花をプレゼントし世話をさせる。その花は安全性が確認されておらず、同僚からも危険だと警告を受けるが、アリスは聴く耳をもたない。

花が出す花粉を最初に吸った犬は、飼い主から違う生き物になったと殺処分される。熱心に花を育てているジョーも目立った変化はないけれど、母親の目から見ると何か隠し事があるかのよう。やがて企業の研究者たちにもほんの少し雰囲気が変わっていく。静謐な映像に和楽器が奏でる雅楽をかぶせ神経をかきむしるような緊張感を醸し出す演出は、アリスの周りに漂う違和感と精神の奥深いところに到達する邪悪を体感させてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アリスの花は賞を取り、商品化される。しかしそれはすべて子孫を残せないように改良された花自身が仕組んだ罠。花粉を吸っても異常は感じない。他人が見ても病気には見えない。感染者は無自覚無症状、誰が感染しているかはもはや誰にも分らない。いつの間にかあらゆる人間が花の目的通りにコントロールされている。洗脳しているようにも思える花の魔力は、緩やかに全体主義が浸透していく21世紀の世界を暗示しているようだった。

監督  ジェシカ・ハウスナー
出演  エミリー・ビーチャム/ベン・ウィショー/ケリー・フォックス/キット・コナー
ナンバー  125
オススメ度  ★★★


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http://littlejoe.jp/