こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

赤い闇 スターリンの冷たい大地で

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革命は成功し、社会主義体制は空前の繁栄を謳歌している。その生産力は今や資本主義諸国を凌駕しつつある。しかし、どうも腑に落ちない。物語は、1930年代ソビエト連邦で、ウクライナに潜入した記者が見た独裁国家の真実を描く。西欧で報道されるのはプロパガンダ臭がプンプン匂うヨイショ記事ばかり。だれもが無邪気に信じようとし、そのからくりを暴こうとした者は殺される。ピューリッツァ賞受賞記者さえも共産党とズブズブの関係を結び、無謬神話に傷をつけるようなネタは一切扱わない。欧米記者の堕落ぶりを目の当たりにした主人公は、ますます疑いを深め、監視をまいて単独取材に挑戦する。そこで見たのはこの世の地獄。現在にまで至るロシア―ウクライナ間の対立は、当時の深い恨みが原動力になっているとこの作品は訴える。

英国首相の外交顧問だったジョーンズは、スターリンのインタビューを取るためにモスクワ赴く。だが、申請はことごとく却下され、代わりにウクライナにある母の故郷を訪ねようとする。

監視の目を盗み一般客車に飛び乗ったジョーンズは人々がやせこけ生気がないのを見て驚く。さらに目的地に着くとパンを求める人の群れや穀物の徴発を目撃する。道端には死体が放置され誰も気に留めない。追われ逃げ込んだ家で供されたものを吐き出す。ロシア人によるすさまじいまでの収奪、本来穀倉地帯だったウクライナを搾取するのではなく集団農場という名の計画飢饉で弱体化させる。その現場をジョーンズは体験するのだ。モノトーンで撮影された白日夢のような映像は、白く凍えた餓鬼道のようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、映画はそこに至るまでのジョーンズの苦労に重点を置き、ウクライナ人民の苦しみは彼がほんの2日ほど見聞きしたことしか再現されない。死んだ兄の肉を削ぎ焼いて食べる妹弟たちのシーンがすべてを語っているが、もっと、想像を絶する悲劇があったはず。飢えと寒さを嘆く子供たちの歌は十分に凄惨だが、その詳細を暴いてこの非人道的政策を批判してほしかった。

監督  アグニェシュカ・ホランド
出演  ジェームズ・ノートン/ヴァネッサ・カービー/ピーター・サースガード/ジョセフ・マウル
ナンバー  134
オススメ度  ★★*


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