こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ポルトガル、夏の終わり

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もうすぐこの世を去る。まだ意識が清明なうちに、自分と大いに関係のあった人々へ胸の内を伝えておきたい。その思いを実現させるために、往年のスター女優は血縁者・縁者・友人を呼び寄せる。物語は、ポルトガルの避暑地に集った男女が織りなす繊細で複雑な心の綾を描く。愛しあっている夫、いまだに一人前になれない息子、ゲイになってしまった最初の夫、義娘一家、映画撮影中に知り合った米国人スタッフ……。彼女から遺言を聞かされると期待してはるばる旅してきた彼らもまた、自らの過去と現在を顧みて未来について考えさせられる。その過程で浮かび上がってくる、ヒロインは何物だったのかという疑問。現夫と元夫の間で交わされる “フランキー以後は人生が変わる” のセリフが彼女の魔性を象徴していた。

静養中のフランキーに会うために世界遺産の町・シントラにやってきた8人の男女は、夕方の集合まで三々五々過ごす。夫婦、将来、仕事、結婚、カネetc. それぞれの悩みは小さな町で同時進行する。

迷路のような旧市街、奇跡を呼ぶといわれる泉、情緒ある路面電車、涼やかな森と眩しいビーチ。人に履歴があるように、町にもまた来歴がある。異教徒に支配されていた時代からカトリック秘跡まで、人と密接にかかわった遺物だけでなく、フランキーの義孫娘をナンパした少年が語るパーソナルな記憶まで、この町の風景には人の思念が染み付いている。そして、森を散策中のフランキーが村人のパーティに飛び入り参加することで、町にまた新たな歴史が刻まれていく。特に観光名所めぐりをするわけではないが、町の魅力を人の経験と結び付けて綴る映像はユニークかつ深い趣があった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

フランキーが余命わずかなのは本人を始め皆が承知している。だが、あえてその話題を避けている。フランキーもその気遣いを知りつつ、態度に出さない。あくまで女優らしい生き方を貫きたいと願うフランキーと、最期の望みを叶えさせようとする家族と友人。端正な構図には言葉にならないやさしさが満ちていた。

監督  アイラ・サックス
出演  イザベル・ユペール/ブレンダン・グリーソン/マリサ・トメイ/ジェレミー・レニエ/パスカル・グレゴリー/ヴィネット・ロビンソン/アリヨン・バカレ/グレッグ・キニア
ナンバー  136
オススメ度  ★★★


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