こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ソワレ

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警察には通報できない。救急車も呼べない。すぐに行方をくらますしかない。血の付いた鋏を現場に残し、ふたりはあてのない旅に出る。所持金はほとんどない。空き家で夜露をしのぎ、疲れ果てるまで歩く。物語は、傷害事件を起こした男女の逃避行を描く。夢半ばで進むべき道を見失った男と、DVのトラウマが癒えないない女。ふたりとも現状に息苦しさを覚えながらも日々なんとか生きてきた。彼らの行く手には希望などなく、ただ沈み込む未来があるのみ。でももう後戻りはできない。追われているのも知っている。ならばできる限り “終わり” を先延ばししようとする。そんなふたりの切羽詰まった思いがリアルだ。耳にする機会が絶えて久しい「駆け落ち」という言葉と行為のはかなくも強烈な哀切が、感情豊かに再現されていた。

父にレイプされそうになっているところを翔太に助けられたタカラは、父の腹を刺す。事情聴取を受けるのが嫌なタカラの気持ちを察した翔太は、彼女の手を引いて走り出す。

すぐに捜査網が敷かれるが、ふたりは巧みに裏をかき、田舎の村から町にたどり着く。どん詰まりの人生を変えたかった翔太と忌まわしい記憶を思い出したくないタカラ。もうここにはいられない、事態がややこしくなるのはわかっていても衝動的に逃げる彼らの選択が、現実世界における生きづらさを象徴していた。だが、逃亡生活が長引くにつれ翔太は怠惰で身勝手な本性を露にし、タカラは働いてカネを稼ぐ喜びに目覚める。非日常が日常になってしまったふたりの閉塞感には、世間からドロップアウトした者だけが感じる孤独が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一度は離れ離れになるが、やはり頼れるのはお互いしかいないと悟ったふたりは、さらなる高飛びを計画、実行に移す。そしてお決まりの別れ。引き裂かれてもきっとまた会える、ふたりの運命を予感させるラストシーンは深い余韻を残し、久しぶりに胸が熱くなった。人差し指を頬にあて口角を上げる、無理にでも笑顔を作る大切さをこの作品は教えてくれる。

監督  外山文治
出演  村上虹郎/芋生悠
ナンバー  146
オススメ度  ★★★★


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