母を見殺しにした父を憎んだ。思わず暴力をふるってしまった。後味の悪さだけが胸に残った。物語は、心に傷を抱える雑誌記者が子供向け番組司会者と交流していくうちに、人生で大切なものは何かに気づいていく過程を描く。取材を通じて知り合った司会者に、記者は時にイヤミなほど辛辣な質問を繰り返す。だが司会者は穏やかな表情を崩さず、答える代わりに記者の怒りの原因を探ろうとする。いつの間にか聞き手と話し手が逆転し、記者は自分の家族の問題に向き合うようになっていく。司会者を演じるトム・ハンクスが柔らかな物腰で “聖人” とも呼ばれる司会者を好演、他人を許すことは己を解放することでもあると訴える。彼にも負の感情はある、それを抑制するために水泳やピアノに打ち込む姿が人間らしさをにじませていた。
高級誌の名物記者・ロイドは長寿番組の司会者・フレッドにインタビューを申し込むが、収録が押して思うように時間が取れない。ところが、後日フレッドから電話がかかってくる。
NYで再取材する運びになり、フレッドのアパートに招かれるロイド。ここでも思うようなコメントをフレッドから引き出せず、逆に苛立ちが募っていく。しかし冷静になると、父とのわだかまり、子育てを巡る妻との葛藤など、プライベートでたまったストレスを取材相手にぶつけ記事にして名声を得てきた浅はかさに思い当たる。そして、フレッドの妻が “努力のたまもの” と評する、包容力に満ちた生き方がロイドに影響を与えていく。不満は不安を産むばかりで、たいていの軋轢はよく話し合い理解すれば解決するとフレッドはロイドに伝えようとする。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
フレッドは番組同様ミニチュアの町の住人という設定ゆえ、いきなりロイドの自宅に電話をしてきたり、地下鉄で大合唱が起きたり、ロイドの父の見舞いに現れたりと、珍しい出来事が次々と起こす能力も持っている。ロイドから見れば、それはおとぎ話の世界。それでも、理想を追い求める姿勢が現実を変えていくとフレッドの大きな背中は教えてくれる。
監督 マリエル・ヘラー
出演 トム・ハンクス/マシュー・リス/クリス・クーパー/スーザン・ケレチ・ワトソン/エンリコ・コラントーニ
ナンバー 145
オススメ度 ★★*
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https://www.misterrogers.jp/