こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

行き止まりの世界に生まれて

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スロープを猛スピードで滑り降り、障害物はジャンプしてよける。クルマの間を縫うように車道を走り、気の置けない仲間と技の難易度を競う。時に転倒しケガするけれどアドレナリンが痛みを忘れさせてくれる。カメラは米国北東部の小さな町に生まれた3人の少年たちの日常を追う。家庭環境に恵まれず高校にも通わなかった。10代の頃はそれがクールだと思っていた。ところが、周囲が大人になっていくにつれ、このままではいけないと思い始める。だが、元々こらえ性のない性格、将来を見据えて我慢や努力をするのではなく目先の享楽に走ってしまう。夢なんか抱いても空しい、未来への希望もない。そんな彼らの生き方は、経済のグローバル化で産業が空洞化した工業地帯・ラストベルトの閉塞感を象徴していた。

ザック、キア、ビンの3人は学校に行かず、スケボーを通じて深い友情を育んでいく。18歳になり、高卒認定試験に挑むが芳しい結果は出ない。ザックとキアは肉体労働の職を得る。

恋人・ニナの妊娠・出産を機に、ザックはよき父親になろうと職人の見習いになる。給料は安く、ニナも仕事に出ないと暮らしていけない。子守りを押し付けあうふたりの間には夫婦喧嘩が絶えなくなり、愛情は薄れていく。ニナは子連れで叔母夫婦の世話になり、ザックは他州に引っ越していく。それでもたまに子供に会いに来るザック。ニナとの関係は壊れても血の繋がった息子はやっぱりかわいい。だれかを愛する気持ちが残っているうちは、きっとザックもやり直しがきくだろうと思わせてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

キアはレストランの洗い場からホール係に昇進すると、少しずつ働いてカネを稼ぐ喜びに目覚める。ビンは映像作家を目指し、自分の母に夫から受けたDVを語らせる。もう若くない年齢になってしまった、スケボーに乗って毎日を冒険のように過ごした青春の日々は二度と戻らない。感傷が漏れ出すラストは、時間はだれにでも平等に流れることを思い出させてくれる。ただ、ありふれた凡人の人生はやっぱり退屈だった。

監督  ビン・リュー
出演  キアー・ジョンソン/ザック・マリガン/ビン・リュー/ニナ・ボーグレン/ケント・アバナシー/モンユエ・ボーレン
ナンバー  149
オススメ度  ★★


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