読み書きもボキャブラリーも小学生レベル。だが、身分違いの恋が彼に一念発起を促し、身の回りの現実を文章に綴るという使命に目覚めさせる。物語は、労働者階級の青年が作家を目指す過程で苦悩と葛藤を繰り返す姿を追う。立ち居振る舞いも話し方も違う上流階級の彼女に認められたい一心で書いた詩はわかってもらえない。日々の糧を得るために汗水流すストーリーは陰鬱と酷評される。何度投稿してもその都度送り返される。それでも小説を書くのが運命と信じひたすらタイプライターに向かう。やがて見えてきた光明。映画はあえて時代設定を「20世紀後半のいつか」とぼかし階級闘争の歴史を盛り込もうとするが、リアリズムとファンタジーが奇妙にまじりあった映像は主人公のキャラにつかみどころのない光と影を与えていた。
波止場で少年を救ったマーティンは彼の家に招かれ、少年の姉・エレナの美しさに心を奪われる。エレナの父の蔵書からボードレールの詩集を借りたのを機に読書の喜びを覚える。
本や雑誌・新聞など見向きもしない生活を送ってきたマーティンだったがたちまち書物の魅力にはまり、肉体労働の間も暇さえあればページをめくっている。作家になると宣言すると、執筆活動に専念するために実家を飛び出す。このあたり、まともな教育も受けずに育ち、文字すらほとんど書いた経験のないマーティンがなぜ突飛なことを言い出したのか、エレナへの思いだけではどうも理解しがたい。誰かに師事するわけでもなく、添削してもらえるわけでもない。自己流の文体はきっと独りよがりのたわごとと編集者には映ったはず。にもかかわらず社会主義運動に首を突っ込むうちに、マーティンが描くプロレタリアート文学はある種の版元には受け入れられていく。中産階級には新鮮で衝撃的な世界だったのだろう。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
売れっ子になり、セレブの仲間入りしたマーティンは、エレナの訪問を受ける。もはやエレナに気後れはない。そんなマーティンが取った態度に、ひねくれた労働者のねじれた感情が凝縮されていた。
監督 ピエトロ・マルチェッロ
出演 ルカ・マリネッリ/ジェシカ・クレッシー/ヴィンチェンツォ・ネモラート/カルロ・チェッキ/マルコ・レオナルディ
ナンバー 160
オススメ度 ★★*
↓公式サイト↓
http://martineden-movie.com/