こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒットマン エージェント:ジュン

f:id:otello:20200929095909j:plain

絵が好きで漫画家になりたかったのに殺し屋にされてしまった。子供のころから猛訓練に耐え、抜群の成績を残した彼は対テロ特殊部隊員にされる。物語は、身元がばれた元暗殺者の奮闘を描く。夢をかなえたはずなのに現実はままならない。一般人になりすまし暮らしているが生活は苦しい。妻と娘に恵まれたけれど、うだつの上がらない毎日に悶々としている。圧倒的な戦闘能力を誇っていても、銃をペンに持ち替えると凡庸以下のストーリーしか浮かばない。結局彼が他人より秀でているのは人殺しのスキルと経験。ならばと、苛烈な己の人生をそのまま作品に昇華させると、当事者にしか描けないリアリティを生む。そんな主人公の姿は、趣味を本業にする厳しさと共に、人は実際に見聞し消化したこと以上をアウトプットできないと訴える。

殉職を偽装し自由の身になって15年、ジュンはネット漫画家として連載を持ちつつも、評判は芳しくない。妻に食わせてもらい娘にはバカにされている。ある日、殺し屋時代の体験を漫画化すると大好評になる。

一躍売れっ子になったジュンだが、ほとんど脚色なしの展開やキャラは元上司の目に留まる。同時にジュンを恨むテロリストにも見つかり、ジュンは国家とテロリスト双方から追われる羽目になる。自分ひとりなら切り抜けられる、だが妻を人質に取られ娘も守らなければならない。幸いまだ体はなまっていない。カンも鈍っていない。ジュンは持てる知識と技を総動員して武装したかつての同僚や敵と戦う。格闘技から銃撃・カーチェイスまで、クォン・サンウのアクションはキレがあり、時折挟まれるコミカルなシーンが息抜きになっている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、全体の構成としてはディテールが甘く、スリルも笑いも中途半端。悪党とはいえ大勢の人間を手にかけた苦悩や、愛する妻に隠し事をする後ろめたさ、元上司や後輩を傷つけざるをえない良心の痛みなど、シリアスなタッチでアプローチした方がよかったのでは。面白おかしく人が死んでいくのはタランティーノだけでいい。

監督  チェ・ウォンソプ
出演  クォン・サンウ/ファンウ・スルヘ/イ・ジウォン /ホ・ソンテ/チョン・ジュノ
ナンバー  162
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
https://hitman-movie.jp/