こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クライマーズ

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確かに頂を極めた。国中のヒーローとなった。だが証拠となる映像はなく、外国人は信じてくれない。やがて国内からも嘘つき呼ばわりされる。物語は、北側から世界最高峰を目指す中国登山隊の奮闘を描く。栄光と挫折、十数年の時を経て登攀隊のリーダーとなった登山家は、汚名を雪ぐために再び準備を始める。高地に作られた訓練キャンプ、酸素が薄い環境下でのハードトレーニング、ほのかな恋。全国から選抜された若者たちはみな使命感に燃えている。党と指導者の期待に応えようと努力している。己の任務をまっとうするためにあらゆる私欲を捨て、少しでも貢献しようと自己犠牲を厭わない。そして誇らしげにはためく五星紅旗。これほどまでプロパガンダに染まった作品を久しぶりに見た。

1960年にチョモランマ登頂を果たしたウージョウは、ボイラー技士として静かに暮らしていた。1973年になってチョモランマ登山隊が再結成、ウージョウはかつての仲間と共に招集される。

恋人にプロポーズしようと廃工場に誘い、命綱もなしに建物の外壁を登るウージョウ。重力を感じさせない軽業師のような身のこなしで屋上まで素早く移動する。重い荷物を背負っていないときの登山家の、驚異的な身体能力に目を見張る。また、訓練キャンプでは、若い候補生がへばっているのを尻目にサーキットトレーニングを圧倒的なタイムでゴールする。そのスタミナと瞬発力には思わずのけぞった。この時ウージョウはすでにアラフォーのはず。命がけの国家プロジェクトで指揮を執るには超人的な体力知力判断力が要求されるとウージョウの背中は語っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

北京五輪の頃から気になっていたが、ジャッキー・チェンはこの作品で明らかに共産党政府を支持する立場に回った。香港映画の顔ともいうべき偉大なカンフースターが、故郷の民主主義が奪われつつあるときに何を考えているのだろう。彼の信条は否定しないが、映画とは、影響力の大きさから、表現の自由を求めて戦ってきた歴史があるメディアであることを忘れてはならない。

監督  ダニエル・リー
出演  ウー・ジン/チャン・ツィイー/チャン・イー/ジン・ボーラン/フー・ゴー/ワン・ジンチュン
ナンバー  163
オススメ度  ★★


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