こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

泣く子はいねぇが

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幼馴染の美女と結婚した。かわいい赤ちゃんもできた。だが一人前の社会人として自立する覚悟はない。誘われると断れず、酒を飲むと我を忘れて迷惑行為に走ってしまう。物語は、何事も全うできない男が、別れた妻と娘に会うために生まれて初めて必死になってもがく姿を描く。深く考えず引き受けてしまう。押しに弱く後で後悔する。誰かに尻拭いをさせたことは自覚している。そして、そんな精神的弱さに嫌気がさしているのになかなか直せない。カメラは、もういい年なのにいまだに大人になり切れない主人公の日常に寄り添い、彼の苦悩を赤裸々に再現する。狭くて濃い田舎の人間関係、待っていても何も変わらない。家族にはあまり頼れない。結局、自分の居場所は自分で見つけなければならないとこの作品は訴える。

ナマハゲ生中継中に全裸で走り出したたすくは、妻のことねに愛想をつかされ東京でひとり暮らしを始める。ある日、友人の志波からことねがキャバ嬢をしていると聞かされ故郷の男鹿に帰る。

ナマハゲ保存会には大きな借りを作っている。市役所勤務の兄や地元で働く母の立場も悪くした。それ以上にことねを傷つけた事実が心に重くのしかかる。関係各所にきちんと詫びを入れ、ことねや娘ともう一度やり直せないかと期待を抱いて男鹿に帰るが、みなが顔見知りという田舎、地元の人々はそれほど甘くない。一方で、追い詰められているけれど命の危険まではなく、実家にいるので食う寝るところの心配もない。切実なのに切迫感がない、ぬる~い世界で送るぬる~い人生。一応、夜の街でことね探しをして、何もしていないわけではないと己に言い訳するあたり、中途半端なはみ出し者の気持ちがリアルだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ことねとの再会を果たしたたすくだったが、再婚するので二度と会わないと宣告される。未練は、断ち切るどころか募るばかり。清水から飛び降りる決意だったのだろう、たすくは「泣く子はいねぇが」とナマハゲの面をかぶって叫ぶ。それを許すことねのやさしさにわずかな希望を覚えた。

監督  佐藤快磨
出演  仲野太賀/吉岡里帆/寛一郎/山中崇/余貴美子/柳葉敏郎
ナンバー  154
オススメ度  ★★★


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