こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

わたしは金正男を殺してない

f:id:otello:20201015124015j:plain

熟練の暗殺者か、利用されただけの捨て駒か。結論は最初から分かっている。だが、当事国がメンツを重んじたがゆえに、2人の女は拘束され運命をもてあそばれる。映画は、2017年に起きた要人暗殺事件の真実に迫る。大勢の人々が行き交い監視カメラの目が光っているスペースで堂々と行われた。残された記録では、実行犯は悪びれた様子もなく逃走や偽装もせず、自分が人を殺したなどとはまったく思っていない様子。一方で、一部始終を柱の影から見守っていた男たちはトイレで着替え速やかに撤収していく。入念に練られ時間をかけて仕込まれた計画、大規模な破壊や銃器を使用しなくてもテロは成功させられる。国家の後ろ盾があれば罪に問われもしない。そして外交上のパワーゲーム。独裁者の陰謀に人生を狂わされた彼女たちが哀れだ。

金正男殺害の容疑で逮捕されたインドネシア人のシティとベトナム人のドアン。弁護団は事件当日のモニター映像から8人の北朝鮮人の関与を疑うが、みな出国するか大使館に逃げ込んでいた。

金正恩体制になって以後、常に命の危険にさらされてきた正男。マカオに住んでいるうちは安全だが、マレーシアにバカンスに行ったタイミングで狙われている。シティもドアンも暗殺の数か月前から動画撮影の名目で接近してきた男たちに指示されて、ローションを見知らぬ人の顔に塗る行為を繰り返している。つまり北朝鮮工作員は正男のスケジュールを正確に把握していて、空港に現れる日時に合わせてシティとドアンをスカウト、ピンポイントで “暗殺者” に仕立て上げたのだ。その後の関係各国政府、特にマレーシア政府を手玉に取る作戦も計算通りに運んだはず。北朝鮮のしたたかな戦略がうかがえる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

弁護団の綿密な調査で、彼女たちはずっとイタズラ動画だと信じていたという事実が明らかになる。そして、人一人死んでいるのに誰も罰せられず、北朝鮮工作員もおとがめなし。金正恩の完全勝利に終わったこの事件、国際社会は手をこまねいているしかないのだろうか。。。

監督  ライアン・ホワイト
出演 
ナンバー  174
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://koroshitenai.com/