こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハッピー・オールド・イヤー

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友人がくれたCD、父が弾いていたピアノ、別れた恋人のカメラetc. ぜんぶ捨てようと思ったのに、やっぱり罪悪感はぬぐい切れない。もらったモノはひとつずつ贈り主に返却し、残されたモノは持ち主の許可を得てから売却する。物語は、自宅のリフォームを機に、たまりにたまった不要物を処分しようとする女の葛藤を追う。無駄なモノを所有せず必要最低限のモノだけで生活する。シンプルだけど心は解放される。ユニークな発想が湧く気がする。新しい自分に生まれ変われる予感がする。そう信じた彼女は大量のごみ袋に「ときめきを感じなくなったモノ」を躊躇なく放り込んでいく。ところが友人のひと言が、彼女を翻意させる。モノに染みついた記憶は彼女の人生そのもの、過去の清算にも思いやりを忘れてはならないとこの作品は教えてくれる。

北欧風ミニマルライフに憧れるデザイナーのジーンは実家をオフィスに改装しようとする。自室だけでなく事務スペースや兄の部屋もモノにあふれているが、ひと月少々で片づけなければならない。

貰い物・借り物は律義に返していく。ありがたがる者、迷惑がる者、拒絶する者、反応は様々だが、その過程を通じてジーンはこれまでの交友録を再確認し、これからもつながっていたい人ともうこれきりにしたい人をふるいにかける。そして、傷つけた元恋人・エムには直接カメラを返しに行く。新恋人と暮らしているエムはジーンを温かく迎え特に恨んでいない様子。このあたりの、元カレ元カノ今カノの微妙な感情は少し理解しがたいけれど、怒ったりしないのはタイ仏教の教えが浸透しているからなのか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、家を出た父のピアノを巡って母とひと悶着あるが、なんとかなだめる。その過程で、ジーンは他人の気持ちを想像することを学んでいく。相手の思いを受け止めた上で、誠実に向き合う。現実には、プレゼントを捨てられるのは悲しいが返しに来られても困る。答えは人の数だけあるけれど、それが煩わしい人間関係の断捨離にもなるとジーンの行動は訴えていた。

監督  ナワポン・タムロンラタナリット
出演  チュティモン・ジョンジャルーンスックジン/サニー・スワンメーターノン/サリカー・サートシンスパー/ティラワット・ゴーサワン/アパシリ・チャンタラッサミー
ナンバー  156
オススメ度  ★★★


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