こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

博士と狂人

f:id:otello:20201023095238j:plain

机の上だけでなく床にも壁にもびっしりと並べられたメモ用紙。それは、あらゆる英単語を網羅し、正確な意味を確定させるために派生語まで調べつくす気の遠くなる作業の出発点でしかない。物語は、大英帝国の拡大で英語が世界中に広まった時代、正統な英語を再定義する辞書作りに挑んだ男の苦難を描く。過去に何度も計画は頓挫した。学者や優秀な学生に任せていては人手が足りない。そこで、研究機関と距離を置いていた主人公が思いついたのは、一般からの用例公募。そして市民から届けられた手紙の中から彼は宝の山を見つける。差出人は精神病棟に収容された殺人犯。深い知性と幻覚への恐怖を同時に湛えた瞳を持つ殺人犯を、ショーン・ペンが繊細に演じていた。中世のままの景観を保つ大学都市が美しい。

オックスフォード英語辞典編纂の責任者となったマレーは、珍しい引用を大量に送ってくるウィリアムに面会に行く。心を病んでいたウィリアムは編纂に協力することで狂気を抑制していく。

白髪交じりのボサボサ頭、もみあげから繋がった長いあごひげ。似たような風貌の2人がお互いを見つめ合い語り合うシーンが印象的だ。難語珍語に関する話題で盛り上がり意気投合し初対面で相手の知識・人格を尊敬しあう友人同士になる。ウィリアムは看守に働きかけ、居室に書庫を作らせて膨大な本や資料を持ち込み、精力的にマレーの依頼に応えていく。一方で、被害者の妻・イライザとも交流し、彼女の態度が軟化するほど正気の時間が長くなる。人間らしさを取り戻したウィリアムをイライザが赦す過程は、過ちを犯した過去は消せないけれど誠意をもって対処すればやり直せると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も、マレーの完全主義ゆえになかなか進展しない編纂作業に理事会から横やりが入ったり、ウィリアムの回復が退行したりするが、ようやく1巻の完成にこぎつける。キーボードを叩けば即座に表示される言葉の意味は、こうした先人の苦労の積み重ねがあってこそだと改めて感じさせてくれる作品だった。

監督  P・B・シェムラン
出演  メル・ギブソン/ショーン・ペン/ナタリー・ドーマー/エディ・マーサン/スティーブ・クーガン
ナンバー  180
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://hakase-kyojin.jp/