こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

きみの瞳が問いかけている

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もう人生をあきらめていた。自分には人から愛される権利はないと思っていた。そんな彼の日常に突然闖入してきた女。彼女は目が見えない。だが、彼は彼女のおかげで生きる目標を見出す。物語は、罪を犯した元格闘家が弱視の女と交流し立ち直ろうとする姿を描く。ただ無為に時間が過ぎていく毎日に、彼女は光を差してくれた。障害があるからといって卑屈になってもいなかった。つらいことだらけなのに無理して笑顔を作っているのはわかっている。だからこそ彼女の力になりたい。そばにいて手助けしてやりたい。気力を失っていた彼が、少しずつ生気を取り戻していく過程は、愛する人がいる実感が人間を強くすると教えてくれる。映像の重苦しいトーンが青春の蹉跌と再生を象徴する。

駐車場の管理室に現れた明香里は累を前任者の老人と間違えた上、中年のおじさんだと思い込んで色々話しかけてくる。すっかり明香里のペースにはまった塁は、彼女とコンサートに出かける。

その後も順調に交際を続けるふたり。明香里のセクハラ上司を累が殴ったときに視覚障碍者が仕事を見つけるのは大変と嘆いたりもするが、キックボクサーに復帰した塁は連戦連勝、彼らの将来は明るいかのように見える。ところが、明香里の両親の墓参時に聞かされた話に塁はショックを受け、翻弄される運命を呪う。さらに半グレグループとの因縁。平和だった日々が徐々に崩れ去る中で、塁は明香里のために必死にもがく。失うものが何もなかった男が守るべきもののために戦う、その覚悟は悲壮な分美しかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

半グレが主催する地下格闘技戦で体格差のある相手と対戦する塁。明香里の目の手術代を前金として受け取り、逃げられない。明香里の希望のために絶望的なファイトに臨む塁の瞳は、視力を失いつつある明香里の瞳以上の哀しみを湛え、真実を告げられないまま別れなければならない男の苦悩と葛藤が凝縮されていた。そして、視力が戻った明香里と再会しても、塁は名乗りを上げず涙を流すだけ。やせ我慢は男の美学なのだ。

監督  三木孝浩
出演  吉高由里子/横浜流星/やべきょうすけ/田山涼成/野間口徹/奥野瑛太/般若/町田啓太/風吹ジュン
ナンバー  181
オススメ度  ★★★


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