こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キング・オブ・シーヴズ

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足を洗ったはずなのに、お宝のネタが耳に入ると血が騒ぐ。止めてくれる妻はもういない。体のキレは失ってしまったが洞察力は健在だ。なにより、あのヒリヒリとした緊張感こそが生きている証、いま一度味わいたい。物語は、かつてプロの犯罪者だった男たちが再結集、人生最後の大勝負で花を咲かせようとする過程を描く。明晰でクールなリーダーは76歳、他のメンバーも60~70代の老人たち。ただひとり前科のない若いメンバーの情報を元に、綿密な打ち合わせと下調べを十分に行う。そして、老人たちは経験とカンを武器に、若者はテクノロジーの知識で、セキュリティをかいくぐっていく。「オーシャンズ」のような洗練された趣は皆無だが、いくつになっても欲望に塗れる姿には人間の醜悪さが凝縮されていた。

妻を亡くしたブライアンは、ロンドンの宝石商が立ち並ぶ一角の地下金庫を破る計画をバジルから持ち掛けられる。ブライアンは早速人脈を駆使して仲間と機材を集め、準備に取り掛かる。

隣のビルから分厚い壁にドリルで穴を開け、金庫室に侵入する。幸い世間は連休、警備も甘く時間はたっぷりある。ブライアンは危険を感じ途中で降りてしまうが残りのメンバーは最後までやり遂げ、まんまと財宝を盗み出す。ところが、街中に設置されたモニターが、彼らの犯行当日の行動を記録している。警察は程なく実行犯の身元を特定し証拠集めにかかる。このあたり、テロ防止が名目とはいえ、成熟した市民社会であるはずのロンドンでも確実に監視社会化している。安全はプライバシーと引き換えにしなければ保障されない現実が暗い気分にさせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

グループは強面男・ダニーが仕切り始め、自分の取り分を多くする。若いバジルは言い返せず、わずかな分け前を手にしただけ。宝石類の現金化もスムースにいかず、もはや分裂寸前で、ブライアンが介入しても事態は深刻化するばかり。同時に捜査の網は狭まっている。それでも悪あがきしないあたりが英国紳士の美学、決して暴力的にならないところに好感が持てた。

監督  ジェームズ・マーシュ
出演  マイケル・ケイン/ジム・ブロードベント/トム・コートネイ/チャーリー・コックス/ポール・ホワイトハウス/レイ・ウィンストン/マイケル・ガンボン/フランチェスカ・アニス
ナンバー  170
オススメ度  ★★★*


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