こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヤクザと家族 The Family

f:id:otello:20201117103040j:plain

家族同然に迎え入れてくれたやさしさと一本筋の通った男気。半端者にはまぶしかった。初めて信頼できる人に出会ったと思えた。物語は、チンピラ暮らしをしていた若者が親分と盃を交わし、ヤクザの道を極める姿を描く。夜の街を肩で風を切って歩いていた。怖いものなんかなにもなかった。まだまだヤクザであることを誇りに思えた21世紀初頭、腕っ節の強さとカネさえあればなんでも思い通りになった。これが男の生きる道と信じて突っ走ってきた。しかし、刑務所に入っている間にすっかり事情は変わる。時代の流れについていけず足を洗ったけれど、その先にあるのは非人間的な生活。ケータイも買えず銀行口座も開けない、人権を厳しく規制されヤクザたちをさらに追い詰めていく「5年ルール」がディテール豊かに再現される。

組長の命を救った縁で柴咲組の構成員になった賢治は程なく頭角を現す。ある日、敵対する組の幹部の挑発に乗って暴力沙汰を起こし、組同士の抗争に発展していく。

父を覚醒剤で亡くしていた賢治は、自分を実の息子のようにかわいがってくれる柴咲をオヤジと呼び心酔、父子以上の絆で結ばれていく。憧れていた義理と人情の渡世、オヤジのためならと、危険を顧みない。このあたりの賢治が成りあがりぶりは、20世紀のヤクザの物腰が少し洗練された程度で特に目新しさはない。ところが惚れた女・由香の前では急に不器用になる賢治。本当は賢治も愛に飢えている寂しい男に過ぎない。柴咲組の疑似家族ではなく、妻と子供に囲まれた家族を持ちたいという願いが切ない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

14年の刑期を終えて出所してきた賢治を待っていたのは、法律と条例にがんじがらめにされて見る影もなくなった柴咲組。構成員はほとんど去り幹部は覚醒剤や密漁のしのぎで細々と糊口をしのいでいる。賢治もカタギに戻れず産廃業者で働きながら、由香と縒りを戻してつかの間の幸せに浸る。だが平穏な日々は長くは続かない。男を極めようと飛び込んだ世界の、誰も描かなかった“その後”がリアルだった。

監督  藤井道人
出演  綾野剛/尾野真千子/舘ひろし/北村有起哉/市原隼人/岩松了/豊原功補/寺島しのぶ
ナンバー  185
オススメ度  ★★★★


↓公式サイト↓
https://yakuzatokazoku.com/