こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ばるぼら

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創造性を刺激する芸術の女神なのか、転落と堕落を加速させる疫病神なのか。狭い通路で酔いつぶれていた金髪の娘を連れ帰った男は、彼女と暮らすうちに創作欲が全身にみなぎるのを感じる。その状態を維持するために、作家はさらなる彼女の “沼” にはまっていく。物語は、人気作家が自らの作品のために魂を売り、破滅していく姿を描く。彼女がそばにいるとアイデアが湧き原稿用紙が埋まっていく。一方で亢進する性欲を抑えきれず、一度ならず彼女に救われる。やがて友人との付き合いも恋人との交際も断つようになる。それでも気分が高揚し頭がさえわたる感覚が忘れられず、彼女と一緒にいることを最優先にする。周囲が一切目に入らない、創作と彼女に集中する陶酔の時間。クリエーターならだれもが憧れる “神が降りてきた瞬間” を手放したくないと願う作家の悪あがきは滑稽にして切実だ。

小説が売れてはいるが行き詰まりを感じていた洋介は、新作の原稿をくだらないとばるぼらから批判される。ところが、彼女の奔放な魅力の虜になり、愛欲の日々に浸るうちにペンが走り出す。

束縛がちな恋人や口うるさい秘書を遠ざけて、ふたりだけの自由な生活を続けたい洋介。もちろんばるぼらを手元に置くには代償を払わなければならない。彼の気持ちを察したばるぼらは邪魔者の排除に動く。執筆とセックスの日々、ただれた快感の中から生み出される洋介の文章は、彼の目には傑作と映る。「ミューズに出会った」と友人に語るシーンは、病的な不健康さを抱えながらも精神的には昂っている矛盾に満ちていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

洋介はばるぼらとの結婚を真剣に考え始める。目隠しで連れていかれた屋敷で行われるカルト教団風の謎めいた儀式。その後は追い詰められて逃亡し、進退窮まっていく。すべては、書きたいものよりも売れるものを書いてきた洋介の、無頼派作家への憧れが産んだ妄想なのだろう。たとえ悪魔と取引しても、己の作品に永遠の命を与えたい。あらゆる芸術家たちの祈りがばるぼらの蠱惑的な瞳に凝縮されていた。

監督  手塚眞
出演  稲垣吾郎/二階堂ふみ/渋川清彦/石橋静河/美波/渡辺えり
ナンバー  203
オススメ度  ★★★


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