こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

チャンシルさんには福が多いね

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映画製作にかかわりたくて全身全霊を捧げていた。気が付けば40歳、それなりの結果を残してきたつもりだった。なのに、敬愛する監督が急死すると自分の経歴を全否定される。物語は、突然失職したプロデューサーが自身を見つめなおす過程で、本当にやりたいこと、本当にやるべきことに気づくまでを描く。現場ではスペシャリストではなく、全体を見渡すゼネラリスト。縁の下の力持ちに徹し、集まった才能を最大限に生かすのが使命と己は決して表にはでない。しかしその分、年下のスタッフや若い女優からは信頼されている。そんな彼女が狭いアパートで再出発すると、まったく違う生き方が見えてくる。食べていくための労働、何年ぶりかの恋、あきらめたはずの夢。新鮮な気持ちを失わなければまだまだ人生はやり直せるとヒロインは訴える。

日銭を稼ぐために新進女優・ソフィーの家政婦になったチャンシルは、フランス語の家庭教師・ヨンと知り合う。ヨンも映画監督を目指していたが、ふたりの映画の好みは正反対だった。

東京物語」を退屈とヨンに言われ傷つくチャンシル。でも、一方でヨンが気になり、妄想を膨らませたりもする。レスリー・チャンと名乗る白下着の幽霊と会話したり、大家のハルモニに字を教えたりもする。大切な仕事は失ったけれど、余った時間が出会いを生み出す。さまざまな人との触れ合いがチャンシルの日常を変えていく過程は、危機感よりはむしろ周囲に流される心地よさに身を委ねているよう。肩ひじ張って運命に逆らわず、控えめな笑顔を忘れない。そこはかとなく漂うユーモアがチャンシルをよりチャーミングに見せていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ヨンとの関係を発展させたいチャンシルは、ソフィーの家を一緒に出て語り合ったり、弁当を作って職場に押し掛けたりと積極的な行動に出る。ところがその先に待っているのは思い通りにならない現実。それでも、その経験がもう一度進むべき目標を示してくれる。頑張るだけではダメ、小休止と回り道も少しは必要とこの作品は教えてくれる。

監督  キム・チョヒ
出演  カン・マルグム/ユン・ヨジュン/キム・ヨンミン/ ユン・スンア/ぺ・ユラム
ナンバー  198
オススメ度  ★★★


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