こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジャスト6.5 闘いの証

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逃げる売人は、迷路のごとき狭い路地を全力疾走し、交通量の多い道路を横切り、金網の向こうの工事現場に飛び降りる。追う刑事は、少し出た腹をゆすり息が上がりそうになりながらもあきらめない。だが売人は姿を消す。プロローグ、いきなり仕掛けられた意外な展開には思わず息をのんだ。物語は、麻薬組織のボスと熱血刑事の暗闘を描く。麻薬取引の温床となっているスラム街、土管を寝床に暮らす100人超のホームレス一斉取り締まりが壮観だ。男たちはいわくありげに商談し、女たちは炊事洗濯に勤しんでいる。子供は水で遊び老人は暇を持て余している。警察は人海戦術でひとり残らず引っ立て、狭い留置場に彼らをすし詰めにするのだ。死刑も10人ほどが一斉に執行される。麻薬犯罪撲滅への取り組み以上に、イランにおける人権意識の低さと命の安さが印象的だった。

麻薬課の刑事・サマドは末端のディーラーを逮捕、脅迫めいた取り調べで組織のボス・ナセルの居場所を突き止める。強制捜査をかけるが、ナセルはすでに睡眠薬で自殺を図っていた。

莫大な富を築いていたナセルはサマドを買収しようとする。桁違いの金額に一瞬心が動いたふりをするが、きっぱりと断るサマド。その後もナセルは拘置所内の便利屋から携帯電話を借りて外部と連絡を取り、あの手この手でサマドに揺さぶりをかけてくる。戒律の厳しいイランでは麻薬犯罪は死刑、ナセルは覚悟を決めているのか、家族の心配ばかりしている。一方で、サマドは部下と対立し、お互いに手錠をかけたりかけられたりと忙しい。さらに検事と裁判官を兼ねたような法務官も登場する。このあたり、警察の命令系統や司法制度が複雑でわかりづらかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ナセルをはじめ容疑者たちはすぐに仲間を売る。サマドたち警察官も同僚と信頼関係を築けておらず、油断すると足元を掬われる。もはや善悪の境界線はあいまい、ただ権力の側にいる者が有利なだけで、誰もが生き残ろうと必死にもがいている。そんな中で、家族を思うナセルの気持ちは本物だった。

監督  サイード・ルスタイ
出演  ペイマン・モアディ/ナビド・モハマドザデー/ファルハド・アスラニ/パリナーズ・イザドヤール
ナンバー  202
オススメ度  ★★★


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