何気なく吐いた冗談がひとり歩きし、後戻りできなくなっていく。でも後悔はない、憧れていた職業だから。自分の善良さを証明できるかもしれないから。物語は、少年院を仮出所した少年が司祭になりすまし、小さな町の人々の意識を変えようとする姿を描く。見様見真似でだいたいの手続きは知っていた。わからないところはスマホで調べて急場をしのいだ。疑うことを知らない住民は、素直に言うことを聞いてくれる。やがて少年は彼らの中でタブーとなっている「事件の真相」を探り始める。もう結論が出ているのに蒸し返そうとする彼に有力者が釘をさす。その態度がさらに彼の疑念に油を注ぐ。身を欺瞞で固めた少年が真実を求めて戦う姿はむしろ滑稽で、欺かれ続けても無力な教会と住民の信仰は神の不在を象徴していた。
新たな職場に向かう途中教会に立ち寄ったダニエルは新任の司祭と勘違いされたのを幸いに、司祭になりすます。信者の信頼を得るうちに、この村で7人が死ぬ交通事故があったと知らされる。
少年院で神父の手伝いをしていたことから信者をごまかせる程度の知識はあるダニエル。犠牲者の慰霊碑で悲しみを噛みしめるばかりの遺族に、感情を爆発させることで前向きな気持ちになれると教える。地元の若者たちとも積極的に交流し、“いま風の司祭” というキャラを確立していく。だが、事故の原因を調べるうちに、1人の男だけが一方的に加害者にされていることに気づき、その男の名誉を回復しようと動き始める。調査すればするほど浮かび上がる小さな田舎町の闇、と言うほどでもないが、町の有力者が警察をも牛耳っていると思わせるあたり、ポーランドの民主化レベルがうかがえる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
加害者の無実を確信したダニエルは彼の葬儀をきちんとあげてやろうとする。それはもはや司祭の役目ではなく、人間としての責務。一方で、まっとうな人間としてやり直したいのに、その根幹が嘘で塗り固められている皮肉。ダニエルの葛藤は、神も人間も所詮は矛盾に満ちた存在であると訴えていた。
監督 ヤン・コマサ
出演 バルトシュ・ビィエレニア/アレクサンドラ・コニェチュナ/エリーザ・リチェムブル/トマシュ・ジェンテク/レシュク・リホタ/ルカース・シムラット
ナンバー 11
オススメ度 ★★★*