こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あのこは貴族

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家の中にいてもきちんとした服を着て行儀よく振舞うようしつけられてきた、超高級住宅街の豪邸に住む女。自室に戻ったらすぐにジャージに着替え肩の力を抜く地方出身の女。生まれ育った階層が異なれば、日常の何気ないシーンで見せる顔がこれほどまでに違う。そこでは、常に見られていることを意識して暮らす人々と一般大衆の意識の差がわかりやすく提示される。物語は、婚活中の女と自立した女が、ひとりの男を巡って運命を交差させる過程を描く。お茶も食事も一流ホテルが習慣となっている上流の女はなかなか価値観の合う男が見つからない。自由な女は大学中退の挫折を味わった後も、底辺から這い上がろうと都会にしがみついている。そんな彼女たちの生来の格差がリアルに再現されていた。

病院経営者の三女・華子は婚約者と破局、新たな恋人を探すがまともな男と出会えない。夜の商売に身を置く美紀は帰省した折に同窓会で旧友の里英と再会、学生時代を思い出す。

周囲から急かされ、自身も結婚が人生の目標という世界で育ってきた華子は、何事もどこか他人任せ。華子たちよりさらに階層が上の青木からプロポーズされると華子は快諾する。洗練された物腰・ルックスの彼と共に何かを目指すのではなく、とりあえず “妻” になる主体性のない華子がとても時代遅れに見えた。一方、東京の名門私大に入学した美紀は、入学早々内部進学生とは深い溝があると知り必死で埋めようとするが挫折。それでもキャバクラ勤めで社交性を磨く。彼女が腐れ縁の男と別れ里英のビジネスを手伝うあたり、就職するより仕事は自分で作る現代風の働き方が推奨され、新たな女性の生き方を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

華子は青木と美紀の過去を知った上で結婚するが、ほどなく夫婦間に隙間風が吹き始める。経験のない、見下されたような感覚を華子は覚え始めるのだ。その後、偶然街で見かけた美紀に声をかけ一般庶民の生活を垣間見るが、雑然としていても生き生きしているのがうらやましい。働き始めた華子の笑顔は自信に満ちて見えた。

監督  岨手由貴子
出演  門脇麦/水原希子/高良健吾/石橋静河/山下リオ/
ナンバー  207
オススメ度  ★★★*


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