こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛と闇の物語

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迫害から逃れてやってきた新天地。一応命の危機は脱し、住むところにも食べ物にも不自由はしていない。だが、母の精神状態と体調は少しずつ悪くなっていく。子供にすぎない自分は彼女を見守ることしかできず、時間だけが過ぎていく。物語は、パレスチナに移住したユダヤ人少年の、両親との思い出を描く。まだ国としてきちんと統治されていない。アラブ人とも微妙な関係。平和を求めているはずなのに、いまだ戦闘は終わっていない。それでも、日々の暮らしは続いていく。大人の事情はよくわからないけれど、両親に愛されているのはよくわかる。母の気持ちを忖度する余裕はないけれど、夜ごと聞かせてくれたお話は想像力を刺激してくれる。そんな、自分の感情をうまくコントロールできない年ごろの子供の気持ちがリアルに再現されていた。

英国統治下のエルサレムで暮らすアモスにとって、母・ファニアが世界のすべて。だが、ウクライナに住んでいた時と比べ生活の質が落ちたことを、ファニアはとても気にしていた。

裕福な商人の家で育ったファニアにとって、エルサレムではつらいことばかり。残念な気持ちをおとぎ話に含ませてアモスに伝えようとしているが、アモスはその意図がよくわからない。せっかく作ったボルシチの味に平気でケチをつける義母がいたり、実の母と大げんかしたり、姉妹たちとの仲もあまりうまくいっていなさそう。アモスはファニアの孤独を敏感に嗅ぎとり母に寄り添おうとする。一方でアモスにもさまざまな事件が起きるが、ファニアに心配させまいとじっとこらえている。いつの間にかファニア以上に大人になっていしまったアモスの感情を抑えた表情が切なかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

夢に見ていたエルサレムでの暮らしは色あせ、ファニアは美しかった過去に浸るばかり。頭痛と不眠でやつれ果てたファニアは死の願望に取りつかれる。アモスに止める術はない。大戦中の欧州で吹き荒れた大虐殺の嵐を生き延びたのに、新しい人生に絶望してしまう人もいる。そんな強烈な皮肉が胸に刺さった。

監督  ナタリー・ポートマン
出演  ナタリー・ポートマン/ギラッド・カハナアリー/ アミール・テスラー
ナンバー  29
オススメ度  ★★*


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