こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

世界で一番しあわせな食堂

f:id:otello:20210225095650j:plain

その男が口にする名前の人物を、村人は誰も知らない。彼は顔を合わせる住民全員に訊いて回る。物語は、フィンランドの辺境の村に息子と2人でやってきた中国人が、“食” を通じて現地の人々を癒していく姿を描く。暇を持て余した老人しか来ない食堂、やる気のない女主人の料理は味も見た目も悪く、栄養のバランスも考えられていない。手を付けないのは失礼と中国人はフォークを握るが、息子はそっぽを向いたまま。ところが中国人が包丁を握ると食堂は一変する。食べることは命と健康を守ること、「医食同源」を旨とする思想が彼には染み付いている。一口の獣肉や魚。1杯のスープ。それらの豊潤な香りと味わいが脳を刺激し、滋養が細胞レベルまで活性化させていく。その過程は、おいしい食べ物こそが人生を豊かにすると訴える。

シルカが経営する食堂にやってきたチェンは、フォントロンという男に会いたいという。ある日、中国人観光客の団体が来店、チェンは見事な手並みで彼らの胃袋を満足させる。

上海で料理長をやっていたというチェンの料理はたちまち評判になり食堂は連日大賑わい。シルカはフォントロン探しを条件に、チェンにキッチンを任せる。観光客だけでなく老人ホームの人々も常連客になり、健康を取り戻していく。地元食材の代表格であるトナカイを始め、野菜や川魚など中国にはない食材でも持参した調味料でたちまち頬が落ちる味に変えていく。まさに東洋の魔法、チェンは一躍人気者になっていく。その間、たいしたことは起こらない、詰め込み過ぎないゆったりとした展開は、噛みしめるほど味わいの出る中国料理のようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

シルカもチェンもお互い配偶者を失くした身、少しずつ意識し始めるが、チェンは決して自分からはモーションをかけない。自らの圧倒的なポテンシャルを示し相手からなびいてくるように仕向ける。節度を弁えているようなチェンの駆け引きは、強大な経済力を背景に小国に貸しを作り自らの勢力圏に置こうとする中国政府の世界進出手法そのものだった。

監督  ミカ・カウリスマキ
出演  アンナ=マイヤ・トゥオッコ/チュー・パック・ホング/カリ・バーナネン/ルーカス・スアン/ベサ=マッティ・ロイリヴィルプラ
ナンバー  31
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
https://gaga.ne.jp/shiawaseshokudo/