自由に選択しているはずなのに “本当の自分” ではない気がする。そんな時友人からもらったアイドルのDVD。彼女に心を奪われた青年は、共通の趣味を持つ仲間と出会って精気を取り戻す。物語は、女性アイドルのファンになった大学生の小恥ずかしくも熱い日々を描く。ほとんど無職のオッサンたちが夜な夜なアイドルについて語り合う。啓蒙活動と称してイベントを開催する。喜ぶ客もいるが、いい年してアイドルに現実逃避している彼らにたいていの人は少し引く。ところが他人の目など気にせず楽しいこと好きなことに人生を費やす彼らは、むしろ輝いて見える。どう見ても恋愛とは程遠い、それでも推しへの愛だけは誰にも負けない。大人になり切れない大人たちが永遠の青春を謳歌する、そのばかばかしさはいとおしくも美しかった。
一夜にして “あやや推し” になった劔は、モー娘。の座談会に誘われる。小さなライブハウスで熱心にそれぞれの推しについて語るモーヲタたちと知り合い、劔は彼らと行動を共にするようになる。
男たちの中で唯一まともな職に就いているコズミンは、ろくな仕事をしていない他の男たちの陰口を言ったり、虚勢を張ったり、新メンバーのガールフレンドにちょっかいを出したりと問題行動ばかり起こしている。一応大学生の劔には一目置いているようだが、誰よりもプライドは高い。追い出されても仕方ないのに、他のメンバーたちはしょーもないことを言いながら受け入れ、だらだらと過ごす。何とも言えない居心地のよさ、ぬる~い関係に終始する彼らのライフスタイルこそが豊かな生活に思えてくる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
だが、少しずつ物足りなさを感じ始める劔。モーヲタたちとバンドを組んだりもするが満たされない。進むべき道は音楽ではなかったのかと自問し、大学卒業後に東京に行った仲間の1人を追う。そこで思い出す過去。非生産的なことにエネルギーを注ぎ込む、それこそが若さの特権なのだ。20年後の “僕” が「楽しいもん」と言い切るシーンは、思い通りに生きる幸せを教えてくれる。
監督 今泉力哉
出演 松坂桃李/仲野太賀/山中崇/若葉竜也/芹澤興人/コカドケンタロウ/中田青渚/片山友希/山崎夢羽/西田尚美
ナンバー 33
オススメ度 ★★★★