思いが強すぎるがゆえに、相手に気持ちをうまく伝えられない。その結果、恋に落ちた男たちに災いをもたらしてしまう。物語は、水の力と呼応する不思議な能力を持った女の悲劇を描く。自分を捨てた男に死の呪いをかける。新しく出会った男に対しては、命がけで愛を得ようとする。ところが、幸福でいられるのはわずかな時間だけ。スクラップ&ビルドを繰り返して成長する大都市の中心部にひとり住むヒロインには家族も親しい友人もいない。そのゆえ常に人恋しい。自分の存在を誰かに覚えておいてもらいたい。だが、彼女の孤独を埋める相手は彼女と同様に孤独でなければならない。そんな、寓意に満ちたメタファーとバッハの旋律で彩られた幻想的な映像は切なくも美しい。“土曜の夜の熱狂” が場違いな驚きと懐かしさを醸し出す。
ヨハネスにフラれたばかりのウンディーヌは、カフェでクリストフに声をかけられる。ウンディーヌはクリストフと交際を始めるが、街でヨハネスとすれ違った時の動悸をクリストフに責められる。
会いたいときは「会いたい」と誘い、距離をおきたいきは「話がある」と言う。縋り付くウンディーヌにはもううんざりと言わんばかりのヨハネス。冒頭、別れ話をする彼らの会話は、愛が冷めたカップルの不毛をリアルに再現する。ヨハネスとの関係が吹っ切れたウンディーヌは切り替えも早く、潜水作業士のクリストフにすぐ夢中になってふたりでダム湖に潜る。水の中では彼女は自由、大きなナマズでさえ意のままに操るウンディーヌ。運命に翻弄されつつも一途に愛を求めるウンディーヌの姿は、人間になれない精霊の哀しい未来を予感させる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
電話で激しいケンカをした後、ダムに行ったウンディーヌはクリストフが事故に遭ったと知る。さらにあり得ない事実を知らされ、原因となったヨハネスに会いに行く。静かにプールに入り水から顔を出したと思ったら有無を言わせず襲い掛かる。ホラー映画のようなウンディーヌの動きは、魔力を纏った者だけが持つ禍々しさに満ちていた。
監督 クリスティアン・ペッツォルト
出演 パウラ・ベーア/フランツ・ロゴフスキ/マリアム・ザリー/ヤコブ・マッチェンツ/アネ・ラテ=ポレ
ナンバー 32
オススメ度 ★★★
↓公式サイト↓
https://undine.ayapro.ne.jp/