こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

旅立つ息子へ

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タツムリが怖い。「キッド」を繰り返し見る。星型パスタが大好き。金魚に名前を付けてかわいがっている。そして何より、いつも一緒にいてくれるパパとは離れ離れになりたくない。物語は、そんな自閉症スペクトラムの息子を持つ父の過剰なまでの愛を描く。自分ひとりできちんと面倒を見ていると、他人の介在を許さない。息子をコントロールするために時に甘やかし時に厳しくもするが、己の気持ちを押し付けているに過ぎない。それを妻や介護職員、弟にまで指摘されるが耳を貸さず、余計に意固地になっていく。息子にとって父は世界のすべて。ところが父にとっても息子が世界の中心になり、彼らは2人だけで世界を完結させようとする。障害を持つ息子への強い思いを暴走させる父の感情は利己的で共感できない。だからこそそこに人間の真実があるのだ。

裁判所命令でウリを養護施設に入所させることになったアハロン。だが、連れていく途中にウリがパニックになり、耐えられなくなったアハロンはウリと共に別方向に向かうバスに乗る。

知人の家に立ち寄ったり安ホテルに泊まったり弟のヨットを訪ねたりと、アハロンは何とか結論を先延ばしにしてウリとの時間を大切にする。しかし、ウリも肉体的には立派な大人、プールでビキニの娘に発情したり義妹のシャワールームに裸で押し入ったりと、性衝動を抑えられない。父親としてアハロンはウリの行動が理解できるが、それは犯罪行為であることをきちんと教えていない。このあたり、障碍者の性という非常にセンシティブな問題にもスポットを当て、親の苦悩を浮き彫りにしていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

元妻にクレジットカードの利用を止められたアハロンは、次第に金銭的にも追い詰められていく。逃げきれないのはわかっている、それでも何とかなると己を欺き、負けを認めない。最後まで未練を捨てないアハロンに対し、少し成長した姿を見せるウリ。ウリ自身が描いたと思われる自動ドアの開ボタンが、どんな人間関係にも終わるときが必ずくることを象徴していた。

監督  ニル・ベルグマン
出演  シャイ・アビビ/ノアム・インベル/スマダル・ボルフマン/エフラット・ベン・ツア/アミール・フェルドマン
ナンバー  52
オススメ度  ★★★


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