こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

きまじめ楽隊のぼんやり戦争

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住宅街を練り歩く楽隊の音楽で目覚め、8時過ぎには家を出て出勤、9時から始まる戦闘に備える。5時になると兵舎に戻り、煮物を買って帰り夕食のおかずにする。まるで判を押したような規則正しい生活、でもこれは戦時下という非常事態の日常なのだ。物語は、兵士として川岸の前線で対岸の敵を攻撃する仕事に就いた男の葛藤を描く。情報はほとんど与えられず、何をするにも非効率な手順が必要とされる。上司の命令には従順でなければならない。一番大切なのは、自分の頭で考えないこと。プログラムされたロボットのような規律正しい行動が求められる。人々の表情からは喜怒哀楽は欠落し、もはやその意味さえ忘れているよう。食堂のおばちゃんが喪失感に打ちひしがれるシーンに、わずかに人間的な感情が感じられた。

毎日自宅から戦場に通う兵士の露木は、1日130発発砲するノルマを守り続けている。ある日、泥棒の三木が同じ隊に配属になるが、三木は何かと質問し、社会に対する疑問を投げかける。

兵舎の受付の女、煮物屋のおっさん、町長、楽隊長etc. 登場人物のほとんどは前例踏襲と現状維持を最優先させる。特に受付の女が傷痍軍人と延々と繰りひろげる押し問答は旧社会主義国官僚主義を見ているよう。思考停止に陥った人間の思考回路をカリカチュアライズし、さらに自分の職を奪いそうな相手には攻撃的になる。人生を管理されているような制度だからこそ変化を嫌う、そんな人間の自己防衛本能はまだ残っているあたり、完全には洗脳されていない。それはわずかな希望だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

キャラクターの造形をはじめセリフの話し方や歩き方まで完全にコントロールされた映像は「1984年」を想起させ、その作りこまれた世界観は全体主義・強権国家の恐ろしさを象徴していた。ただ、それを寓話的に表現しようとする試みは、この映画自らが作った枠組みから決してはみ出さず、単調な展開は冗長さを禁じえなかった。まあ、そうやって人間の自由な心を定型にはめ込むのが全体主義国家の狙いなのだが。

監督  池田暁
出演  前原滉/今野浩喜/中島広稀/橋本マナミ/矢部太郎/片桐はいり/嶋田久作/きたろう/石橋蓮司
ナンバー  56
オススメ度  ★★*


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