こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トゥルーノース

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深夜押し入ってきた保衛局員に連行された先はこの世の地獄。過酷な強制労働でやせこけた人々はわずかな食料を奪い合っている。あてがわれた粗末な小屋は家族3人で暮らすには狭すぎる。文句を言えば制裁が待っている。物語は、北朝鮮の労働キャンプに収容された少年の苦難を描く。体の弱い者、心の弱い者はすぐに死んでしまう。理不尽な理由で処刑される者もいる。収容所長は生殺与奪の権を握る絶対的な存在、高圧的な看守たちにも服従を強いられる。使い捨ての奴隷のような扱いを受け、いつ釈放されるかわからない。それでも生き抜こうとする主人公一家。CGを使った精緻なアニメが主流の中、あえて初期のCGのようなカクカクした動きに違和感を覚えたが、やがて洗練されていないからこそ目を背けたくなるような悲惨なエピソードが中和されていることに気づく。

ピョンヤンで暮らしていたヨハンは、母と妹と共に政治犯強制収容所に送られる。母は希望を持ち続け妹のヒミは優しさを失わず日々過ごしてきたが、ヨハンは厳しい現実に少しずつ人間らしい心をなくしていく。

木の実や葉っぱ、草や小動物まで口にして飢えをしのぐ収容者たち。密告が奨励され告発された者には拷問が待っている。時々風船が運んでくる南からの支援物資はめったにないごちそう、だが雑誌やDVDは看守に献上する。そんな環境でも他人を思いやる母やヒミとは反対に自分を優先させるヨハン。人間としての価値が試される場面でも憎むべき相手を許す母の姿は、たとえ死んでも気高い理想は必ず誰かに受け継がれると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、収容者の間で練られた脱獄計画に参加するヨハン。太陽節の祝日に混乱を起こして実行に移し、母の遺志をまっとうする。その際、収容者に対し容赦なく接していた監視班長にも良心が残っていたことはわずかな救いだった。ただ、あのオチでは、ヒミがいないところでヨハンが経験したことはすべて伝聞と想像になってしまう。あえて観客をミスリードする必要はなかったのではないだろうか。

監督  清水ハン栄治
出演  ジョエル・サットン/マイケル・ササキ/ブランディン・ステニス/エミリー・ヘレス
ナンバー  54
オススメ度  ★★★★


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