こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サンドラの小さな家

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暴力をふるう夫にはもう耐えられない。2人の娘を連れて家を出た彼女は住むところをなくして福祉の世話になるが、あてがわれたのはホテルの小さな一室。物語は、不安定な仕事に就くシングルマザーが、娘たちと一緒に暮らすための家を自分で建てようと奮闘する姿を描く。設計図や費用の算出はネットや図書館で独学。土地の提供者も現れた。あとは実行に移すだけ、と意気込んで資材を買いに行くが、細かいことは何もわからないと気付く。書類の提出も必須、何より人手がまったく足りていない。それでも彼女は伝手を頼りに少しずつ協力者を増やしていく。リアルな人間関係が希薄な現代、他人に必要とされることで自分の存在価値を再確認する、承認欲求の強い人々が進んで手を貸すのだ。住む家がないなら立ててしまえというヒロインの飛躍した発想に驚いた。

老人介護とパブの雑用をしながら子育てしているサンドラは、介護するべスから裏庭に家の建築許可をもらう。予算は35,000ユーロ、週末だけの作業だが、意外にもボランティアが数人集まる。

週に一度は夫に娘たちを預ける条件でサンドラに親権が認められている。夫は謝罪の言葉を口にして復縁を迫るが、サンドラにその気はない。さらに、次女のモリーが夫を恐れていると面会をキャンセルする。母親として必死で頑張っているけれど、経済的にもひっ迫し、夫との約束も守れないサンドラに対し、法は厳しい判断を下す。彼女の希望となっているはずの家づくりも、問題山積で全然楽しそうではない。このあたり、仲間と力を合わせて何かを成し遂げる達成感とは無縁な映像は、甘くない現実を前面に押し出して貧困層の実態をリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後サンドラの願いはかない、新たな人生に踏み出す。ところがツキに見放されたサンドラには、絵に描いたようなハッピーエンドなど訪れない。“殴られる母を見て育った息子” が、結婚するとDV夫になる。そんな義母の言葉は、家庭内暴力の連鎖を断ち切るためには戦う勇気が必要だと教えてくれる。

監督  フィリダ・ロイド
出演  クレア・ダン/ハリエット・ウォルター/コンリース・ヒル/イアン・ロイド・アンダーソン/ルビー・ローズ・オハラ/モリー・マッキャン
ナンバー  61
オススメ度  ★★*


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