こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

BLUE ブルー

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観客席裏手の通路から階下の控室につながる狭い階段、その薄暗いスペースにはうなだれたまま去っていった無数のボクサーたちの無念が染みついている。ボクシングの聖地・後楽園ホール、「あきらめなければ夢は叶う」とか「努力は必ず報われる」とかいったまやかしはここでは通じない。物語は、うだつの上がらないボクサーと、チャンピオンを目指す彼の後輩の蹉跌を描く。派手にKOされてもへらへら笑っている主人公の優しすぎる性格は格闘技には向いていない。才能に恵まれた後輩は脳障害の症状を抱えながらリングに上がる。仲のいい2人は、しかしひとりの女を巡って葛藤を抱えている。心に巣くっている負の感情を隠すためにいつもニコニコしている好青年が一度だけ本心を語る。彼の言葉にはあらゆる負け犬たちの人生が凝縮されていた。

日本タイトルを目指す小川の前座試合で負けた瓜田は、幼馴染の千佳の前でも悔しそうなそぶりは見せない。小川はチャンピオンになったら千佳と結婚すると宣言する。

基本に忠実なだけの瓜田はディフェンスが甘くすぐにパンチをもらう。一方でジムの後輩やおばさんたちにバカにされても決して怒らずに笑って受け流す。本当は悔しいはず。はらわたが煮えくり返っているはず。それでも、弱いという事実は覆せない。他人を傷つける以上に傷つきたくない。プライドが高いがゆえに他人と違う次元に自分を置く。そんな瓜田の処世術は、負けを認めさえしなければいつか勝てるのではというはかない希望でしかない。さわやかに見える笑顔の裏がほんのわずかに垣間見える、そのあたりの微妙な心理を松山ケンイチが繊細に演じていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

小川はタイトルを取るが、日常生活に支障をきたすほどダメージが蓄積している。千佳との新婚生活もラブラブとは程遠い。瓜田は相変わらずリングに沈んでばかり。それでも彼らは日々ハードなトレーニングを自らに課し、試合の日を心待ちにしている。リング上で浴びるカクテル光線、その麻薬のような快感からボクサーは逃れられないのだ。

監督  吉田恵輔
出演  松山ケンイチ/木村文乃/柄本時生/東出昌大
ナンバー  63
オススメ度  ★★★★


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