5時に起きて朝食の支度を始める母。娘たちは空のペットボトルを抱えて水を汲みに行く。寒い冬の朝もその日課は変わらない。もう何百年も続くルーティンなのだろう、女たちは疑問もなくそれを受け入れている。カメラはモロッコ山岳部で暮らす少数民族の少女に密着、彼女の半年を追う。伝統的なイスラム社会、政府は男女平等を謳っているが、彼女の村にはまったく浸透していない。女の子が牧草を刈り家畜に餌をやり乳しぼりを手伝い絨毯を織っている間、男の子たちはサッカーボールを蹴っている。せっかく学校に通っていても結婚で学業をあきらめなければならない。男たちは欧州に出稼ぎに出るのに女たちが村を出るのは夫についていく時だけ。そんな環境で弁護士になる夢をかなえようとする彼女の未来は険しい。
学業優秀で将来は人の役に立つ仕事がしたいというハディージャは、結婚を控えた姉・ファティマと大の仲良し。だが、結婚は女の義務と考えているファティマに、わずかな失望を覚えている。
父はフランスやドイツで働いていたと語る。だが今は特に仕事そしている様子はない。生活に必要な労働はすべて女任せ、にもかかわらず進学・結婚をはじめ、彼女たちの人生にかかわるイベントは家長たる男が決定権を握り女はただ従うのみ。一応彼らの家にもテレビはある。ガラケーだけれども携帯電話もある。それでも反イスラム的な男女平等思想は伝わらないのだろう。ハディージャは、大都市に嫁いだ女たちの伝聞から「自由」を想像するが、具体的なイメージは湧かない。そもそも欧州のリベラリズムに触れたはずの父は、それが「素晴らしいもの」とは思っていないのだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ファティマが嫁いでひとりになったハディージャは村の外に思いをはせる。ここから出ていく日は来るのか。生き方を自分で選べる時代は来るのか。アラブの春の後、一気に民主化したかに思えたモロッコも、結局は混乱よりも安定を選ぶ傾向がかえって強くなった。国王主導で宗教改革しない限り近代化は不可能だと改めて感じた。
監督 タラ・ハディド
出演 ハディジャ・エルグナド ファティマ・エルグナド
ナンバー 50
オススメ度 ★★★*