こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

いのちの停車場

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夫に介護される寝たきりの年老いた妻。セカンドオピニオンを求める女流棋士。大きな障害を負いながらも前向きな気持ちを捨てない経営者。末期がんを告知され余命を有意義に過ごそうとする元官僚。治療の見込みが立たない子供とその両親。物語は、在宅医療専門の医師の目を通して、だれもが逃れることのできない “死” を直視する。もともとは救急救命医で、流れ作業のように運び込まれる病人けが人を見てきた。だが、患者の自宅でじっくりと向き合う訪問医に転身した彼女は、優秀なスタッフに恵まれ自らの医療に対する姿勢を見つめなおしていく。患者の健康を回復させるのが医師の職責だが、寿命が尽きかけた人を安らかに逝かせるのも仕事。苦痛はあるが、家族知人にきちんとお別れができる「がん」で死ぬのも悪くないと思った。

東京の大病院から金沢の小さな診療所に転職した咲和子は、看護師の麻世と患者宅を自転車で往診する毎日に改善の余地を感じる。ある日、東京での知り合い・聖二が診療所に転がり込んでくる。

病院ではないせいか、患者たちは咲和子にわがままばかり言う。肺がんの芸者は遠慮なくタバコを吸おうとして、たしなめられたら開き直る。IT企業経営者など咲和子を呼びつけて面接などと偉そうな態度。それでも咲和子は穏やかな表情を崩さず彼らの言い分に耳を傾け、期待に沿えるよう努力を惜しまない。そんな彼女に麻世も聖二も医師のあるべき姿、医療の理想を見出していく。患者を理解しようとする姿勢こそが、患者にとって一番の薬なのだ。咲和子の、聖母のような慈しみの深さを嘘っぽくなく表現できるのは吉永小百合だけだろう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で彼女も、年老いた父の扱いに困っている。体が動かなくなったうえに痛みに耐えられなくなった父は死なせてくれと咲和子に懇願する。父の気持ちはよくわかるし、尊厳を損ないたくもない。ところが日本の法律は安楽死を許さない。咲和子の苦悩と葛藤と逡巡は、超高齢化社会を迎えつつある日本と日本人に突き付けられた命題でもある。

監督  成島出
出演  吉永小百合/松坂桃李/広瀬すず/西田敏行/田中泯/石田ゆり子/伊勢谷友介/小池栄子/泉谷しげる/柳葉敏郎
ナンバー  60
オススメ度  ★★★*


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