こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブックセラーズ

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羊皮紙に手書きされた分厚い革表紙の本は、それだけで美術品の趣を持っている。活版印刷が発明され大部数出版されるようになると、表紙は傷み本文も虫が食っていたりするが初版本には高額の値がつけられる。カメラは、古書と古書に人生を捧げた人々を通じて、書籍の未来を占う。巨大なイベントスペースに集められた無数の古書の中からお宝をみつけ出そうとする古書店主。どんなものに値打ちがあるのかは時代と共に移り変わる。その流れを読み的確な判断を下した者が生き残る。だが、あらゆるものがネットで売買される現代、コレクターたちは古書店に足を運ばず検索し注文すると狙いの本を手に入れることができる。それでも、リアルな書籍の感触を好む古いタイプの古書店主たち。デジタル社会だからこそ、 “本物” にこだわるのだ。

NYブックフェアで掘り出し物を探す古書店主たち。かつてNYのあちこちにあった古書店も、近年は電子本に押され撤退する店が増加している。そんな中、21世紀の古書店主たちは古書に新たな価値を見出している。

床から天井まで隙間なく詰め込まれた本の数々。狭い通路を挟んで書棚に並んだ古書からは乾いた紙の匂いが漂ってきそうだ。全編を通じてBGMとして流されるジャズのメロディは古書とコレクターの関係を軽やかに代弁し、読書が醸し出すハイソな香りを濃厚に漂わせる。書物に囲まれて生きる幸せ、それはいくらカネをつぎ込んでも惜しくない、魂のレベルでの満足感なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、場所を取る書籍は地価の高い都会では経営効率が悪い。同時に本は内容と割り切って電子本しか買わない世代の台頭で、ますます需要は小さくなっている。しかし、アート作品としてのカバーや、有名人への献辞、著者の手稿といった新たな視点で生き残りをかける古書店主たち。紙に印刷した本は21世紀中になくなるだろう。この作品に登場する古書店主たちと古書を愛した作家やコレクターは、書籍に対する愛を惜しみなく語る。それは滅びゆく文化に対するレクイエムなのだ。

監督  D・W・ヤング
出演  デイブ・バーグマン/アディナ・コーエン/ナオミ・ハンブル/ジュディス・ローリー/ジム・カミンズ/アーサー・フルニエ/スティーブン・マッシー
ナンバー  76
オススメ度  ★★★


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