こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

砕け散るところを見せてあげる

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ヒーローになる! そう決意した高校生は学校でいじめられていた下級生女子を思わず助ける。やがて、暗い表情でまともに話せなかった彼女は、少しずつ少年に心を開いていく。物語は、そんなふたりが距離を縮め理想的なカップルに成長していく過程を描く。ごみを投げつけられ、上履きを捨てられ、トイレに閉じ込められ、水をぶっかけられ、タッパーの中身をぶちまけられても黙って耐え忍んでいる少女。少年はそのたびに彼女のもとに駆け付けかばってやる。見返りは求めない。ほどなくその行為は同級生から “かっこいい” と評価されるようになる。吃音気味の少女が精いっぱいの勇気を振り絞って礼を言うシーンは、感謝の気持ちを伝えることが良好なコミュニケーションと人間関係を築く基本であると教えてくれる。

ずぶ濡れになった玻璃を保護した清澄は、彼女の制服を乾かす間いろいろな話をする。少々訳ありでズレたところはあるがかわいい顔をしている玻璃を、清澄は守ってあげたいと思い始める。

おばちゃんが作ってくれたおはぎを清澄から渡されると大喜びする玻璃。高校入学後、ずっとクラスメートから相手にされなかったのだろう、かみ合わない会話の中でも清澄は玻璃を理解しようと努める。額を出し背筋を伸ばせばそれなりに見栄えのいい玻璃に、清澄はもっと自信をもって胸を張れと励ます。このあたりのスクールカースト最下位女子が上位男子に見初められる的設定は通俗的だが、清澄のポジティブなキャラゆえにテンポよく楽しめる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、玻璃の父親が登場したあたりから彼らの日常に影が差し、先が読めなくなる。UFOとは何か、家出したお母さんといるはずのおばあちゃんはどこに行ったのか、荒れ放題の家など、玻璃の私生活が明らかになるにつれ怪しげな空気が立ち込める。かなり強引で無理があるが、自分のためには戦わないというヒーローの掟が通奏低音となっているために、なぜかその展開を心地よく受け入れてしまうのだ。命がけで他人を救う姿はやっぱり美しい。

監督  SABU
出演  中川大志/石井杏奈/井之脇海/清原果耶/松井愛莉/北村匠海/矢田亜希子/木野花/原田知世/堤真一
ナンバー  81
オススメ度  ★★★


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