こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

湖底の空

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体の性と心の性が違っていた弟はずっと女の子になりたがっていた。彼の願いは大人になって叶ったはずなのに、姉との間には越えがたい違和感が横たわっている。物語は、非常に珍しい「一卵性双生児姉弟」の2人が、人生の転機で新たな関係を築いていく過程を描く。夢を追って外国まで来たのに、チャンスを目の前にすると立ちすくんでしまう。言い寄ってくる男に好意を持っているのに、気持ちとは反対の行動を取ってしまう。妹になった元 “弟” がいつもそばで見守ってくれているのに、一歩踏み出す勇気が持てない。自分だけ幸せになろうとする自分が許せない、そんな、内省的なヒロインのややこしくもどかしい心理の動きが繊細に再現される。照明を使わず不自然なほど暗い食事シーンは彼女の内面を象徴しているのだろうか。

上海でイラストレーターをしている空は、現地の日本人・望月に仕事を紹介してもらう。その後もいろいろ気にかけてくれる望月に、空は、性転換して女性になった妹・海の話をする。

性別など気にせずに生きていた幼いころ。韓国の景勝地で生まれ育った空は、ことあるごとに両親と海のことを思い出している。家族を大切にしているが稼ぎの少ない日本人の父。やさしいけれど生活に追われ疲れている母。日本人の血が混じった変態と地元の子供たちからいじめられる海。よく覚えているのは、海は絵が得意だったこと。望月のアプローチに対しても海という予防線を張って、己の領域にまで踏み込むのを決して許さず、むしろ彼の心をもてあそんでいるかのよう。空の振る舞いは腹立たしいほどに礼儀を欠いていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

望月から依頼があったイラストを完成させる空。あたたかなタッチで再現されたぬいぐるみの寓話は、美しい思い出があれば永遠の別れがもたらす寂しさにも耐えられると教えてくれる。そして明らかになる真実。愛し合い支えてくれる人がいれば、過去を乗り越えられると空の笑顔は訴えていた。生まれた国にいられない落武者暮らしも悪くないと思わせてくれる作品だった。

監督  佐藤智也
出演  イ・テギョン/阿部力/洪明花/武田裕光/アグネス・チャン/ウム・ソヨン/ジョ・ハラ
ナンバー  77
オススメ度  ★★★


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