こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブラックバード 家族が家族であるうちに

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もう覚悟はできている。だが、その時を迎える前にもう一度愛する者たちと過ごしたい。物語は、死期を迎えた女が家族とともに過ごした最期の3日間を描く。皆が納得して送り出すはずだった。楽しい思い出を残すはずだった。お互いに悲しみを見せないように幸せ芝居を続けている。だが虚構は長くはもたない。感情をコントロールできない次女は、彼らが都合よくまとめた偽善にいち早く気づき、空気を壊していく。何度も何度も話し合ったのだろう。反対意見をひとつずつ説得していったのだろう。全員の同意を得るために費やした労力と時間をいまさら無駄にできない。その流れに、本当にこれが正しいのかと次女は疑問を抱く。人間はいかに死ぬか、その選択肢があるうちに己の意志で決めておく。それがどれほど大変かとこの作品は訴える。

海辺の豪邸で暮らすリリーとポールのもとに、長女・ジェニファー一家、次女・アナと恋人、親友のリズが集う。リリーは進行性の難病で、体が動くうちに自らの意志を実行しようとしている。

結論は出ているとはいえ、やっぱりリリーとの別れはできるだけ先に延ばしたい。心のどこかで別の道があるのではという思いがくすぶっている。朝食で交わす何気ない会話、散歩の途中の思い出話、ディナーの後のゲーム大会。それら日常のありふれた風景がかけがえのない出来事に思えてくる。「死ぬ日を決めたら死が怖くなくなった」というリリーの言葉は、延命措置で無理やり生かされるよりも人間としての尊厳を持って死にたいという、彼女の価値観を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、ここにきて家族の隠し事が次々と明るみになる。行方不明になっていたアナは療養施設にいた。大切な人が長年不倫をしていた。記憶の奥まで探ると、今の状況につながる断片がいくつもある。家族といえども所詮は独立した個人の集まり、秘密も嘘もそれぞれが持っている。関わりたくなくても関わらざるを得ない、そういった面倒事も含めて結束する。そんな家族のすばらしさを彼らは教えてくれる。

監督  ロジャー・ミッシェル
出演  スーザン・サランドン/ケイト・ウィンスレット/ミア・ワシコウスカ/リンゼイ・ダンカン/サム・ニール/レイン・ウィルソン/ベックス・テイラー=クラウス/アンソン・ブーン
ナンバー  91
オススメ度  ★★★*


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