こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

茜色に焼かれる

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謝罪しない男からのカネは絶対に受け取らない。一方で死んだ夫の父や愛人の子の面倒は見る。母子ふたりが暮らしていくだけでも大変なのに、歯を食いしばって耐えている。物語は、そんな彼女の目を通して、社会のセーフティネットからこぼれ落ちた人々の日常を描く。狭い市営団地に住んでいる。若い新人のために職場をクビになる。息子は学校でいじめにあう。シングルマザーはすぐにヤレると軽く見られ、軽薄な男たちが口説いてくる。それでも弱音は吐かず、かたくななまでに己の信念を貫くヒロイン。性風俗の客にどれだけ馬鹿にされ罵られようとも笑顔を崩さない。心は傷ついているのだろう。怒りを飲み込んでいるのだろう。なのに、自分を守るためにスマイルを顔に張り付かせている。“悲しくて笑う” の意味がよく理解できた。

老人ドライバー暴走事故で夫を亡くした良子は、その老人の葬儀に参列しようとして追い返される。賠償金を拒否した彼女はホームセンターと風俗で中学生の息子・純平を養っている。

意地を張っているのは、加害者が人の命を奪っても悪いと思わず “上級国民” として天寿をまっとうしたことを許してしまう世間に対してなのだろう。もちろん同情してくれる人もいる。風俗店の若い同僚・ケイもまた、過去と現在の二重苦にさいなまれながら、生きるために性的サービスを提供している。収入はわずか、だが支出は待ってくれない。愛した夫の生き方を尊重し、純平を育てるためにひたすら理不尽を我慢する良子の姿は、切なさ以上に気高い美しさを感じた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

中学時代の同級生と偶然再会した良子は、真剣に付き合ってもいいと思い始める。純平は、デートの約束をしてくれたケイを初恋の相手に選ぶ。少しだけ持てた夢と希望、ところが現実は彼らのような貧困層にとことん厳しい。気持ちを折らず戦い続ける彼らの背中をそっと抱きしめてやりたくなった。ただ、重いエピソードの連続は見ていて気が滅入る。もう少しテンポを速め100分くらいにまとめていたらもっと共感できたのだが。。。

監督  石井裕也
出演  尾野真千子/和田庵/片山友希/オダギリジョー/永瀬正敏/大塚ヒロタ/芹澤興人/前田亜季/鶴見辰吾/嶋田久作
ナンバー  94
オススメ度  ★★*


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