こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ローズメイカー 奇跡のバラ

f:id:otello:20210602153814j:plain

手塩にかけた白バラは自信作だったのに時代遅れと評される。でも父から受け継いだバラ園は絶対に守ってみせる。物語は、業績不振のバラ園を経営する育種家が新たな品種を開発しようと奮闘する姿を描く。従業員は古参の女性と3人の素人。それでも、彼らは特技を持っている。セキュリティ厳重な生産場に侵入し、季節外れのバラを栽培し、墓参りに白バラを勧める。常識外れで奇想天外、誰もがひらめかなかった、ひらめいても実行に移さなかったビジネスモデルを構築することで現状を打破しようとする過程は創意に満ちている。花びらの色や形だけではない、開き方から葉の健康状態までチェックされ、さらにその香りには様々な種類がある。バラといっても非常に奥深い世界があることをこの作品は教えてくれる。

コンクールで受賞を逃したエヴは、人件費を抑えるためにフレッドたち職業訓練生3人を雇う。翌年のコンクールに向けて新作開発に着手したエヴは彼らの力を借りて、ライバル企業の花粉を盗み出す。

広々とした屋外の農園だけでなく、温室でも数種のバラを手掛けている。花屋で売っているような切り花ではなく接ぎ木された株が地面から生えている。種をまき、苗を育て、地植えし、収穫するまで壮大な時間と手間がかかっている。植物を美しく成長させるために人は何をすべきか。完全に近代化されたライバル企業の「バラ工場」とは違い、エヴの農場は生き物を相手にするときの愛情がこもっている。世話をする人の思いが強い分、エヴが生産するバラには濃厚なエッセンスが詰まっているようだった。春夏秋冬をワンショットに収め、1年の流れを表現するシーンが素晴らしい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

順調に伸びていたいた新種のバラは突然の雹で全滅する。資金繰りも万策尽き、もはやライバル会社に買収されるしか道は残されていない。そんな時に起きた奇跡。エヴがフレッドに贈った花言葉の本と押し花に込められたメッセージは、花を愛でる者だけが持つ繊細な感情、なによりも他者への思いやりに満ちていた。

監督  ピエール・ピノ
出演  カトリーヌ・フロ/メラン・オメルタ/ファッシャー・ブヤメッド/オリビア・コート/マリー・プショー/バンサン・ドゥディエンヌ
ナンバー  97
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://movies.shochiku.co.jp/rosemaker/