こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ココ・シャネル 時代と闘った女 

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もはやファッションの枠を超えて歴史上の人物になった感のあるシャネル。女性をコルセットから解放し世界中に流行を発信し続けたにとどまらず、決して妥協しない生き方を示すことで世の中を変えるほどの影響力を持っていたことを映画は再確認する。一方で、シャネル自身が伝記作家たちに押し付けてきた “神話” を検証し、有名になる前の経歴詐称を暴いていく過程は非常に興味深い。親戚の家で家政婦をしていたというより、身寄りのない少女が誰の助けも借りずに成り上がったイメージを強調したかったのだろう。さらにユダヤ人実業家との対立とナチス協力。スパイとまではいかなくても、ドイツ軍からチャーチルとの交渉窓口として中立国に派遣された事実を明らかにするなど、デザイナーとしての職域を超えた行動は彼女の人となりを知るうえで非常に刺激的だった。

1895年、母の死と父の蒸発で孤児となったシャネルは、お針子や場末の音楽ホールでダンサー・歌手をしながら生計を立てていた。そこで裕福なバルサンの愛人になり経済的苦境から脱出する。

その後、カペルと知り合ったシャネルは帽子を大ヒットさせジャージー生地を用いた服で革命をもたらす。第一次大戦の影響もあり米国で大ヒット、一躍有名になったシャネルはセレブとの人脈を広げていく。この辺りは、シャーリー・マクレーンオドレイ・トトゥアナ・ムグラリスらが演じたシャネルの伝記でも語られている通り。だがこの作品はあくまでアーカイブから発掘した「公式」ではないシャネルの実像をあぶりだす。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その最大のポイントはアーリア人至上主義だろう。ヒトラーの同類と見られても仕方のない身の処し方は大戦後パリ駐留米軍に香水を配った事実にも表れている。真実は、シャネル自身が語った過去とはかなり違う。スイスに亡命したのも、ほとぼりが冷めるのを待ったのだろう。そして伝説の復活ショー。パリでは酷評されたのに米国で絶賛され再評価されるという皮肉は、世界の中心が欧州から米国に移ったことを物語っていた。

監督  ジャン・ロリターノ
出演 
ナンバー  69
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/21_cocochanel.html
DATE  21/4/15