こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ベル・エポックでもう一度

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己の人生がいちばん輝いていた時代に戻ってしまった。若造と呼ばれた。まだまだ世の中は洗練されていない。それなのに失ってしまったものが、確かにそこにはある。物語は、長年連れ添った妻にアパートを追い出された男が、“妻との出会いの日” を再現するサービスを受けるうちに、虚構と現実の境界を越えてしまう過程を描く。そこでは、彼の記憶のディテールまで忠実に再構築されている。若き頃の妻を演じるのは雰囲気のある女優、他の登場人物ももちろんプロ。そんなことは理解している、それでも彼は心奪われた瞬間を思い出し、その女優に恋をしてしまう。酒とドラッグ、喧騒と猥雑に満ちていたけれど刺激的だった。甘いメロディに満ちた幸せな過去から抜け出せなくなった主人公の感情の動きがリアルだった。

息子からプレゼントされた “タイムトラベル体験” チケットで、ヴィクトルは1974年のシチュエーションのスタジオに入る。目に映るものすべては当時のまま、妻・マリアンヌとの初対面が演出される。

ヴィクトルの容姿は老人だが、周囲には若者に見えるというお約束。映画関係者が徹底した世界観を作り上げたセットはいつしかヴィクトルに切ない夢を見させ、彼はマリアンヌを演じたマルゴという女優にストーカー行為を働いてしまう。風俗嬢に入れあげる男やホストクラブにはまる女はきっとこんな思いを抱えてお店に通っているのだろう。相手は仕事だから愛想よくしていると頭ではわかっていても心が暴走するのだ。そのあたりのヴィクトルの繊細な心理は、いくつになっても男はロマンチストであると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方、本物のマリアンヌは、不倫を続けながらもヴィクトルを追い出したことを後悔し、自分が嫌な女だったと自覚する。そしてヴィクトルの変化に気づき、本当に大切なものは何かを確信する。それにしても、相当な手間と費用をかけて作りこみ、さらに血迷った客をあきらめさせるためのカバーストーリーまで用意している。その、「嘘を真実に見せる」テクニックに舌を巻いた。

監督  ニコラ・ブドス
出演  ダニエル・オートゥイユ/ギョーム・カネ/ドリア・ティリエ/ファニー・アルダン/ピエール・アルディティ/ドゥニ・ポダリデス
ナンバー  108
オススメ度  ★★★


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