こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アウシュヴィッツ・レポート

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ヨハン・シュトラウスの行進曲を楽隊が演奏している。絶望に打ちひしがれ表情をなくした囚人たちはうなだれたまま隊列を組んで作業場に向かう。死が日常風景になった世界を音楽で彩ろうとする、なんとも皮肉で意地の悪いシーンが看守と囚人たちの立場を象徴する。物語は、強制収容所を脱出しその殺人工場の実態を世界に知らしめようとした2人の若者の苦難を描く。日々重労働に耐えうるか否かの選別が行われ、健康でない者は処理されていく。明らかに国際法に触れているのだが、巧妙な隠ぺい工作で囚人たちは人道的に扱われている体裁になっている。カメラはそんな、“ガス室送りにならなかった囚人” に寄り添い、彼らの感情をリアルに再現する。飢えや疲労を超越した意志の力は、人間の強さを再確認させてくれた。

自分たちで集めた大量虐殺のデータを手に、アルフレートとヴァルターはアウシュヴィッツから脱走する。3日間木材置き場に身を潜めた後、捜索が終わったのを確認して2人は鉄条網の外に出る。

当然ながら囚人たちにも日々の暮らしはある。監視の目は厳しいが、宿舎の中にまでは入ってこない。盗難があったり新入りが親切に迎え入れられたりと、彼らの中にも人間関係は生まれる。水道の水は危険などとは初めて知った。一方、2人が逃げたと知った看守たちは収容所周辺徹底的に捜索する。その間、残された囚人たちは寒空の中で立たされ、点呼責任者は棒で打擲され命を落とす。囚人たちは見張りの目を盗んでパンを分け合うが、立っていられない者も出てくる。そのあたり、希望なき状況では助け合いこそが生き延びる可能性を高めると訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ルフレートとヴァルターは無事国境を越え赤十字に保護される。だが、当地の責任者は、ドイツの収容所では囚人が適切に扱われていると、援助物資や囚人からの手紙を2人見せ、彼らの証言をなかなか信じない。支配する側が情報を発信する、現代でも同じ悲劇が繰り返されているというこの作品のメッセージは、中国に向けられているのか。。。

監督  ペテル・べブヤク
出演  ノエル・ツツォル/ペテル・オンドレイチカ/ジョン・ハナー
ナンバー  85
オススメ度  ★★★*


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