こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アジアの天使

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夢もない希望もない、目の前に横たわるのは格差・対立・言葉の壁といった暗澹とした現実だけ。それでも、新しい出会いがあれば少しは未来がましになると思えてくる。物語は、韓国に渡った日本人兄弟と息子、ソウルで暮らす地方出身の3兄妹の旅を描く。現状を肯定できる要素は何もない。だが、環境と気分を変えれば何とかなるかもしれない。そんな彼らがおんぼろトラックに揺られて走るうちに少しずつお互いの心の痛みを分かち合い気持ちを通じ合わせていく。日本人の兄以外は自国語しか口にしないのに、なんとなく感情だけは共有できている。伝えようという真摯な思いがあれば相手も理解できる。異文化異言語コミュニケーションに大切なのは単語や文法ではなく、相手の目を見てきちんと話すことだとこの作品は教えてくれる。

兄を頼って子連れでソウルに渡った剛はいきなり住むところを失う。歌手のソルは契約を打ち切られ、兄・妹とともに母の墓参りに向かう。6人は同じ列車で知り合い、剛たちはソルの墓参りに同行する。

剛はソルが泣いているところに一度ならず遭遇する。そのたびにやさしく話しかけ、ソルも応える。剛は妻を、ソルは仕事を、大切なものを失ったのに、まだ残された家族がいるがゆえに身勝手にはふるまえない。ままならない人生にもがきながらも自力で変えられることはほとんどない。どん詰まりの状態では共感してくれるだけで救われた気になると、彼らの行動は示している。やがて剛とソルは片言の英語で会話するようになる。交換する情報量が飛躍的に伸び、それに伴ってますますお互いが気になる存在になっていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ソルのことを考えもやもやしている剛に、兄は「よくわからない感情は全部愛だ」と背中を押す。オダギリジョー扮する、ちゃらんぽらんに生きてきたとしか思えない兄が発した言葉はこの作品の中で一番の真実をついていた。社会の底辺でもがいていたからこそ、たくさんの女を愛してきたからこそ言える気障なセリフ。その脱力感が絶妙だった。

監督  石井裕也
出演  池松壮亮/チェ・ヒソ/オダギリジョー/キム・ミンジェ/キム・イェウン/佐藤凌/芹澤興
ナンバー  122
オススメ度  ★★*


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