このまま連れ戻されたら殺される。自らの運命を知った犬は、脅えおののき、体をこわばらせて抵抗する。外科実習のために解剖される犬が感じる恐怖がリアルに再現されていた。また、保護センターでは飼い主が見つからなかった犬たちが “ガス室” に送られる。鉄の扉が閉じられる、殺処分の瞬間が厳粛な趣をたたえていた。物語は、人間の都合で殺される動物をなくそうとする獣医師の奮闘を描く。学生時代からその思いは誰よりも強く、教授に指導されても変わらない。理屈ではない、ただ救いたいだけ。言葉より先に体が動く。信念を貫く主人公は一切の利害を考えず、ただ純粋に犬のために尽くす。その全身全霊を賭けた戦いは、常識や前例にとらわれないアイデアと、不可能と思えることに挑戦し続ける者だけが世の中を変えられると訴える。
獣医学科の颯太は3人の仲間を集めて犬部を作る。貰い手のない犬の面倒を見ては譲渡会を開いたりしながら無事卒業するが、保護センターに就職した柴崎とは意見が分かれ袂を分かつ。
十数年後、動物病院の医院長となった颯太は採算を考えずに避妊手術を請け負うなど、学生時代の青さを失っていない。一方で、後輩に頼まれて、倒産したペットショップの犬を保護したことから逮捕されたりもする。一時は犯罪者扱いされるが、犬を愛する気持ちが世間に浸透するにつれ誤解も解かれていく。そのあたり、度が過ぎた颯太の思いが少しずつ周囲を変えていく過程は、人は何を考えたのかではなく何をしてきたかで評価されると教えてくれる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
颯太は卒業以来音信不通の柴崎に会いに行くが、彼は引きこもり状態。現実の壁にぶつかり、自分一人の力ではどうしようもないと自信を失っている。道は違っても犬の命を大切にしたい気持ちは同じ。柴崎を立ち直らせることで、颯太はより多くの犬を保護できると学んでいる。若き日に抱いた理想を失わないまま、他人の意見にも耳を貸す余裕はできている。そんな颯太の一途な生き方は、犬に縁がない者にとってもまぶしかった。
監督 篠原哲雄
出演 林遣都/中川大志/大原櫻子/浅香航大/田辺桃子/ 安藤玉恵/しゅはまはるみ/田中麗奈/酒向芳/螢雪次朗/岩松了
ナンバー 134
オススメ度 ★★★*
↓公式サイト↓
https://inubu-movie.jp/