こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ホロコーストの罪人

f:id:otello:20210730095054j:plain

北の果ての王国まで逃げれば無事だと思っていたのに、独裁者の魔の手は容赦なく迫ってくる。だが、先祖代々信じてきた神に嘘をつくわけにはいかない。物語は、ノルウェーにおけるユダヤ人迫害の黒歴史を紐解いていく。戦争にはあっさりと負けた。占領軍は少しずつ社会に浸透し、市民生活を支配している。調査票による申告、住民登録から身分証へのスタンプ、資産調査と差し押さえ。理由も告げられないまま逮捕された男たちは収容所に送られ重労働を課される。誰もが息をひそめて生きているが、誰も助けてはくれない。人口が少ないゆえにネットワークも小さい。それでも愛する妻が待つ家に生還することを誓った男は過酷な環境を耐え抜く。また明らかになったホロコーストへの国家単位での協力、それを後世の政権が認める、その勇気に感銘を受けた。

ドイツ軍統治下のオスロナチス司令部から命令を受けた地元秘密警察はユダヤ人の一斉検挙に動き始める。その対象者には元ボクサー・チャールズの両親と兄弟も含まれていた。

ドイツ軍占領地域のユダヤ人がさまざまな理由で差別されているのはノルウェー人も知っている。だが情報伝達の速度も確度も現代とは比べ物にならないほど低かった時代、ノルウェーユダヤ人は、自分たちは大丈夫だと思っている。機転を利かしユダヤ人申告を拒否するチャールズに無理やり正直に申請させる父のへの頑固さが運命の暗転をもたらしたともいえる。神に対する信仰の篤さ、彼らはその後の受難も神の意思として受け入れたのだろうか。秘密警察の女秘書が一斉検挙を歓迎する態度を見せるシーンに、普通のノルウェー市民のユダヤ人に対する思いが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

収容所に送られた一家は板の間に服のまま就寝させられ、翌朝そのままの格好で肉体労働に駆り出される。看守たちはノルウェー人だが、囚人をいたぶって楽しむような意地の悪さを見せる。収容所の資料はほとんど残っていないのだろう、彼らはどんな日常を送っていたのだろう、真実を知りたくなった。

監督  エイリーク・スベンソン
出演  ヤーコブ・オフテブロ/クリスティン・クヤトゥ・ソープ/シルエ・ストルスティン/ピーヤ・ハルボルセン/ミカリス・コウトソグイアナキス/ カール・マルティン・エッゲスボ
ナンバー  103
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://holocaust-zainin.com/