こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

Summer of 85

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転覆したヨットのそばで溺れているところに現れたのは涼しい目をした長髪の青年。助けてくれた上に、世話を焼いてくれて、その日のうちに親友になる。物語は、海辺の町で暮らす高校生の少年の初恋を描く。青年は押しが強いだけでなく、路上の酔っぱらいを介抱するなど親切心にもあふれている。少年は初めて心を許せる友人ができた気がした。映画を見た。ディスコで踊った。バイクで暴走した。乱闘もした。バイトさせてもらった。夏休み、少年は有り余る時間とエネルギーをすべて青年に費やし、その思いを抑えきれなくなって彼を受け入れてしまう。特に自覚しているわけでもない少年が抵抗なく青年に体を預けるのだ。まだ同性愛が一般的ではなかった時代、切なくも美しく上書きされた少年の記憶は、友情が恋に代わる瞬間をみずみずしくとらえていた。

ダヴィドと付き合い始めたアレックスは毎日が楽しくて仕方がない。だが、アレックスの知人の英国娘・ケイトが2人に合流、ダヴィドがケイトと仲良くなったことからアレックスは不機嫌になる。

“先に死んだ方の墓の上で踊る” という奇妙な約束をする2人。まだまだ若いのに、父を亡くしたばかりのダヴィドは死を身近に感じている。どんなに元気な人間でも突然逝くこともあり二度と戻ってこない。命の儚さを知っているからこそ、自分が生きていた証を誰かに残したかったのだろう。映画は、アレックスがダヴィドを回想する体裁、すでに死んでいると知っているからこそダヴィドの笑顔が余計にまぶしく映る。ダヴィドの母の異様なほどの愛情は、夫を亡くした悲しみの裏返しなのだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ダヴィドに先立たれたアレックスは強烈な喪失感と後悔に襲われる。ユダヤ人のダヴィドは戒律に沿って葬られるが、アレックスは弔問すら許されない。それでも最後の願いをかなえた後、約束を果たそうとする。狂おしいほどの思いをたたきつけるようなアレックスのダンスは、懐かしくもスローでメロウなメロディが一層哀しさを引き立たせていた。

監督  フランソワ・オゾン
出演  フェリックス・ルフェーブル/バンジャマン・ボワザン/フィリッピーヌ・ベルジュ/バレリア・ブルーニ・テデスキ/メルビル・プポール/イザベル・ナンティ
ナンバー  151
オススメ度  ★★★


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