こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シャン・チー テン・リングスの伝説

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2両連結のバスに乗車中、いきなり数人の暴漢に襲われる主人公。運転手は倒れ、暴走する狭い空間で相手の攻撃をかわして蹴りや突きを見舞い、座席を飛び越えポールを利用し瞬く間にザコを片付ける。最後に現れたのは右手が剣の男、内装をぶった切りながら迫って来る。前半の山場ともいうべきスピードとスリル抜群の映像は、全盛期のジャッキー・チェンを思い出させる。物語は、ダークサイドに堕ちた父の暴走を止めるために故国に戻った若者の奮闘を追う。少年時代から鍛え上げられた武術は、父との葛藤で封印していた。だが、妹の身に危険が迫り、戦わざるを得なくなる。そして知った父の秘密と母の思い。拳を交える前に右足で半円を描く、カンフーを基礎にしたアクションは優雅な形式美に満ち溢れ、礼を重んじる東洋的思想が新鮮だった。

相棒のケイティと共にマカオに飛んだシャン・チーは地下格闘技場を仕切る妹・シャーリンと再会、両親が出会った村・ターロウを目指す。動く竹藪の迷路を抜けた先は桃源郷のような村だった。

地下格闘技場で繰り広げられるガチファイトから、竹を組んだビルの足場を使った格闘など、一瞬の気も抜けないほど目まぐるしく展開する。さらにシャン・チーは父とも再会、過去の因縁が再燃する。このあたり、父とシャン・チー兄妹の間にある葛藤に深みがない。まあこの親子にしかわからないねじれた愛憎が絡んでいることはわかるのだが。そしてCGの比率が高まるにつれ、映画は肉体性を失っていき、俳優たちの動きも舞踊のようになっていく。中国的な神秘性を持たせようとする試みは斬新さに欠けていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

村人たちが守ってきた魔界の門が解き放たれた後は、薄っぺらなデジタル創作物のオンパレード。2時間以上の上映時間ずっとテンションを保ち続ける作品のパワーはすさまじいが、登場人物にもう少し奥行きがあればもっと楽しめたはずだ。ただ、ケイティを演じたオークワフィナの小さな体から発散されるパワーには圧倒された。むしろ彼女を主役にしてほしかった。

監督     デスティン・ダニエル・クレットン
出演     シム・リウ/オークワフィナ/メンガー・チャン/フロリアンムンテアヌ/ベネディクト・ウォン/ミシェル・ヨー/トニー・レオン
ナンバー     159
オススメ度     ★★*


↓公式サイト↓
https://marvel.disney.co.jp/movie/shang-chi.html