こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アナザーラウンド

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職場でも家庭でもどこかぎくしゃくしているのは素面のせいだから? ただ酒を飲みたいだけなのに、無理やり理由をつけて朝からほろ酔い状態になる男たち。物語は、“血中アルコール濃度を0.05%にすると人生が変わる” という論文を信じた高校教諭4人組が、日常生活でその理論を実証していく過程を描く。酩酊しない程度に飲んだ酒は確かに気分を高揚させ、言動も積極的になる。何をやってもうまくいかなかった自分が突然輝きだしたような爽快感に浸れる。だが慣れるにしたがって心も体はさらに強い刺激を欲するようになる。自制の利かない弱さと酒に責任転嫁する狡さ、そんな人間のありのままの姿を丁寧に活写した映像は、愛おしむような優しさに満ちている。なにより、教訓めいたことを押し付けず、あくまで人生を肯定する視点が心地よい。

マーティンは出勤前から顔に出ない程度に酒を飲み、その状態を維持するために学校でも隠れて飲み続ける。すると授業内容が充実し、生徒たちも真剣に話を聞くようになる。

他の3人も同様で、明らかに0.05%効果を実感している。飲酒するだけでなく、トイレで呼気を検査するなど、実験としてもまじめに取り組んでいる様子が笑いを誘う。マーティンは学校だけでなく距離を感じていた妻との仲も修復、0.05%理論を証明する。このあたり、生きるのは酔っぱらうこととでも言いたいような開き直りぶりで、運転して事故を起こしたり暴力沙汰に巻き込まれたりとかいった飲酒に対するネガティブなエピソードが一切ないのが清々しい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

血中アルコール濃度の制限をはずした4人は暴走し始める。家飲みで泥酔し、スーパーで迷惑をかけ、酒場で暴れ、道路で寝込む。教育者がこんなことをして生徒や保護者に見つかったら、日本では職を失う羽目になるだろう。さらに、暴走気味になっても、基本的に自由が尊重されているのか、家族以外は個人の事情に立ち入らない。そのあたりも含めデンマーク人の考える人権は、日本とは根本的に違うと感じた。いい悪いは別にして。。。

監督     トマス・ビンターベア
出演     マッツ・ミケルセン/トマス・ボー・ラーセン/マグナス・ミラン/ラース・ランゼ/マリア・ボネビー
ナンバー     161
オススメ度     ★★★*


↓公式サイト↓
https://anotherround-movie.com/